コミック

31. Januar 10

【コミック】 田中圭一 『ドクター秩父山』

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 ここ最近になって、障害者医療の現場を視察する仕事が増えてきた。今月も何件かの施設を視察する予定が入っている。
 障害者医療を考える上で欠かせないのは、ここに存在する様々な<禁忌=タブー>についてもオープンに語り合う環境を整えることである。特にこれまでわが国では、障害者の全人的な社会的自立やQOLにともなう「性」の問題、「表現」と「差別」の問題などを公開の場で考えることは特に禁忌とされてきた。特に扱いにくい「性」の問題は、障害者にはあたかもそのようなものは存在しないと否定することにより、彼らから人間性のもっとも大切な一端を偏見のもとに黙殺してきたともいっても過言ではない。
 また、「表現」と「差別」の問題にしても困難である。いわゆるアウトサイダー・アートといわれる障害者による芸術作品に対して、他の作品と同様に批評の俎上にあげて作品の批評の機会を得る、ということも難しくさせている。批評する側のほうが、アウトサイダー・アートに踏み込むことに恐れているのである。賞賛の批評は書けても厳しい批評は書けないのである。
 これは何もアートに限らず、格闘技などの身体表現についても付いてまわる。私が個人的に交流を持っている障害者プロレス団体「ドッグレッグス」の格闘家たちも、毎回このような社会的な偏見とも闘いながらリングに上がっているのである。当初、福祉イベントの余興として、仲間うちの福祉施設でプロレスごっこをやっていた時代から、プロの団体として格闘技専門の小屋を借りて興行を打つようになった今日でも、彼らの行為を“障害者を見世物にする”といったつまらない論理で彼らを社会の制度によって作られた道徳的規範に閉じ込めようとする人間は後をたたない。ようするに、スポーツライターの乙武洋匡さんは民放のドキュメンタリーに登場できても、お笑い芸人・ホーキング青山は『エンタの神様』に登場することはない。同様に、ドッグレッグスの試合も格闘技番組として中継されることはない。彼らの目指す究極のバーリトゥードは、世の中の「制度」の中では存在しないこととなっている。

 さて、書斎の本棚を整理していたら、まさにこんな硬直した道徳的制度をブラックな笑いで吹き飛ばしてしまうようなコミックが出てきたので紹介する。田中圭一の『ドクター秩父山』だ。
 この作品は4コマからなるギャグマンガ。主人公はドクター秩父山という怪しい外科医だ。彼が遊び心満載で患者にいろいろな戯れを仕掛けるという内容なのだが、これがタブーそのものなのである。
 表現において問題になるタブーとしてあげられる最たるものが、「病気」と「身体障害」であろう。仮に病人自らが自分の病気を笑い物にする場合には特例的に免責されるが、第三者がこれをやった場合には、しばしば作品や行為の批評は店晒しにされて、「差別」の問題と議論が置き換えられる。従って、売れ筋のお笑い芸人であっても今日では意図的に避けている領域である。
 しかし、その「笑い」の中に非常に根本的かつ今日的なテーマが通底していた場合、それは破壊力満点の批評性を以って制度を無効にするのである。
 『ドクター秩父山』の第1巻に「車イスの少年」という作品がある。車イスに乗った運動神経抜群な少年がスキー・ノルディック複合のジャンプのように崖からジャンプして、見事に着地を決めるというものだ。技が決まった少年がドクター秩父山に“見てくれましたか! 先生!”というと、次のコマで、“歩く練習をせんか! このアホ!!”と秩父山のツッコミが入るというオチである。これは、制度の中においていわゆる障害者といわれる人が持っている個別のポテンシャルを表現することによって、「制度」側、つまりインサイダーに立つ我々の道徳的常識を笑い飛ばしたものである。
 しかも、他の四コマ作品と比較しても異例なのは、普段は脱「制度」的な戯れを患者に仕掛けるはずのアウトサイダーなドクター秩父山のほうが、「そんなことより歩く練習をしろ」というまことに常識的な発言をすることで、我々と同様のインサイダー側に立ってしまっていることである。つまり、ここで秩父山自身に起こった<アウトサイダー>⇔<インサイダー>のロールプレイが非常に面白いのである。
 まさにこれは今流行りの「友愛」などという偽装のペルソナを被った我々に、踏み絵を踏ませるような作品だ。

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