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August 2011

07. August 11

【写真】『LIFE~父の眼差し,娘の視線~』佐々木厚・鈴木麻弓2人展(東京ミッドタウン・富士フィルムフォトサロン)

Life

 女川出身の写真家・鈴木麻弓と,その父・佐々木厚の2人展である。
 3月11日の大震災と津波で,鈴木の実家であった佐々木写真館は跡かたも無く流されてしまった。そして写真館を営んでいた鈴木の両親も未だに鈴木の元へと帰って来ない。それ以来鈴木は,まるで亡き両親を捜すかのように,瓦礫に埋め尽くされた女川の地に立ち,震災後もそこで生きる人々のポートレートを取り続けている。
 今回その様な状況下の中で撮られた鈴木麻弓によるポートレートと,父・佐々木厚が残したオリジナルプリントをコラボレーションしたのが本展である。

 まず2人展入口に入ると,1台の泥と傷だらけのカメラがアクリルケースに入れられて鎮座している。フジフィルムGF670モデルとキャプションがある。想像するに,まるで中東の紛争地帯から戦場カメラマンの遺品として持ち帰られたようなこのカメラは,女川で写真館を営んでいた父・佐々木厚の物である。未だ行方不明の両親の身の代わりに,娘の写真家・鈴木麻弓の手元に戻ってきたのは,このカメラといくつかのオリジナルプリントだけである。かつて佐々木写真館があった場所はほとんど更地になって建物の面影も無い。しかしその背景には超然とした美しい海と青空が広がっている。
 この断片的ともいえる郷土の喪失は,女川町という人口約1万の小さな漁撈集落のいたるところで起こっている事実である。写真家・鈴木麻弓の震災をきっかけとした今回の仕事は,その失われた郷土の記憶の断片と父の手触りを求めてシャッターを切り続けたルポルタージュであると言っていい。ここに登場するポートレートの被写体は,その背景に様々な人生の来歴を持ち,フレームの中で最も力強い瞬間が焼き付けられている。
 同様に,父のオリジナルプリントを焼き起こしたモノクロームのポートレートも,今一度ここに並べてみると,圧倒的な迫力を持つ写真インスタレーションとして蘇って来る。写真館でポートレートをライフワークとした父・佐々木厚がかつて手がけた作品は,まるで彫塑の様に量感がある。近年はデジタル画像に感覚が補正されてしまっている我々からするとノイズやイレギュラーとして映ってしまう背景や影,逆光がもたらす複雑な反射も,相当に時間をかけて描きこんだ1枚のデッサンの様にも見える。そこはおそらく,長年父の仕事を見てきた鈴木麻弓なら,1枚のポートレートが完成するまでの,父の仕事の足跡を追う事も可能であろう。
 そして父のポートレートと対するかたちで並べられた鈴木麻弓の作品は,冒頭でも説明したように,震災後も女川で暮らす人々の生活誌を捉えたものだ。だが,生活誌と言っても現在の女川町には,その生活の基盤となる支持体が無い。では,家だけではなく,集落の「日常」まで津波で流されてしまった人々を,鈴木麻弓はどう撮ったのかというと,かつて人々の「日常」があったであろう空間,つまり,見渡す限りは空と海と瓦礫の山の空間に立たせて,シャッターを切ったのである。
 そこに映し出されたものは,まるで戦禍の中に佇む人々の様ではあるが,ただ1点だけ異なるのは,この人々は郷土を捨てずにここに留まった人々なのである。そして自分の足で立ち,ここから郷土再生をしていくであろう人々なのである。

 女川町千年の歴史を辿れば,藩政時代には方々の軍勢に攻め込まれ,また,貞観,慶長,昭和三陸と,幾度となく大きな震災に見舞われながらも,人々がここの集落を捨てる事は一度も無かった。入江で形作られた各浜の集落も,それぞれに独立した「講」と伝統的漁撈文化を持ち,近代以降は村民自らが軍港誘致,そして鯨王と謂われた日本水産創業者の岡十郎がノルウェー式捕鯨や遠洋漁業の重要基地としてここを選んだ。伝統を継承しつつ,常にその時代の先端産業と共存してきた逞しさは,平成の町村大合併でも「女川」という町の名を絶やす事は一度もなかった。
 このような土地に育った佐々木厚と鈴木麻弓という2人の写真家を繋いでいるのは,幾重にも地層の様に集積された女川の民俗と,郷土の記憶であり,彼らによってフレームに収められた人々は,その文化を継承してきたアーカイヴを骨格に持った人々なのである。今,その村落共同体の記憶は,父から娘へと伝承されて,この町の復興とともに,一度は喪失した生活誌と「日常」を,再び蘇らすであろう。

■】『LIFE~父の眼差し,娘の視線~』は8月18日(木)まで開催。
(10:00~19:00)最終日は16:00まで
http://fujifilmsquare.jp/detail/11080501.html

鈴木麻弓公式ツイッター
http://twitter.com/#!/monchicamera

鈴木麻弓公式web
http://monchiblog.exblog.jp/

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