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25. Mai 11

【メディア】女川『うみねこタイムズ』創刊

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 5月12日に,東日本大震災の被災地である女川に,地元女川町民の手による地域紙『うみねこタイムズ』が創刊された。
 女川を始めとする東北地方で購読されている新聞として最もよく知られたものは『河北新報』である。その他には役場が発行している機関紙『女川広報』が地区長を通して女川町の全世帯に配布されている。
 このたび創刊された『うみねこタイムズ』は,現在も被災地で避難所生活を続ける女川町民の為の生活情報を伝えるものである。紙面はB4一面で,活字は写植ではなく全て手書きだ。これが現在『河北新報』に織り込みされて,各地区の避難所に届けられている。
 内容は,まず女川の地理に沿って細かく書かれた避難所マップがある。指ヶ浜地区の「かっぱ農園」避難所から,塚浜地区の「女川原子力発電所」避難所にかけて,自治体に指定された全17個所の避難所と,その収容人数が記されている。さらに,移転,他府県への疎開のために閉鎖,再編された避難所があれば,異動人数も明記されている。
 この避難所マップは,これからも逐次情報が更新されていくと思われ,避難所再編や収容人数の変化により,町の復旧の様子が手に取る様に分かるであろう。つまり,町内のたった数人の異動であっても,そこには人の営みがあり,今まで名も知らぬままであった人口1万の小さな漁撈集落の存在を,身体的なリアリズムをもって認識できるであろう。
 この他にも,ボランティア活動報告,営業再開情報,満潮時刻表,在宅避難地区・物資配給情報,避難所レポートなど,読者も記者も発行者も地元町民ならではの生活情報が網羅されている。これらは,被災の大きさをことさらに伝えようとするアウトサイダー(部外者)である中央メディアではけして伝えきれないものだ。そして集落の中で分散した町民らのライフラインとなっているのである。

■『うみねこ』とは伝統的漁撈集落の象徴
 平安『三代実録』,『女川町誌』,『女川町震嘯誌』など,過去千年の集落の歴史を文献で辿れば,かつて女川町は,東北の経済を支える先進的な漁業基地であった事がわかる。古くは日本水産創始者の岡十郎が当時最先端だったノルウェー捕鯨を創業し,その捕鯨基地を女川港に開き,加工工場を石浜に作った。一方で大洋漁業の中部幾次郎と極洋捕鯨の山地土佐太郎は鮎川に捕鯨基地を開く。
 これにより女川湾には大型船舶が多く往来するようになり,三陸を代表とする一大前線基地となっていったのである。そしてこの豊かな魚場の上には,いつも無数のうみねこ達が舞っている。
 この状況を見たスペイン使節のビスカイノは,慶長16年の『金銀島探検』の中で,石浜、竹ノ浦などを指して“良港”と言っているのである。

■在宅避難地区・物資配給情報
 『うみねこタイムズ』第2号には在宅避難地区の情報も掲載されている。
 現在女川では,復興後の都市計画案として,高台移転と集落統合という難しい問題が出てきている。これは,再び津波で被災しないようにと自治体側が考えている復興計画の一つである。ひところ町作りで提唱された,いわゆる「コンパクトシティ」という概念だ。
 しかし,この案について多くの町民から異論が出た。町民にとっては効率化,即ちそれは今まで脈々と伝承されてきた独自の漁撈民俗やそこでの常民文化の解体を意味するからである。
 平安『三代実録』を紐解けば,女川は藩政時代の女川組二十浜の頃から今日まで,貞観,慶長と再三にわたる大津波で被災し,また,外部からの軍勢に苦しめられたが,一度たりとも女川の名が地図から消えた事がなかった。平成の町村合併においても,女川よりも人口が多い隣町との合併も受け入れず,独自の村落共同体を守ってきた土地柄がある。
 この強い結びつきの土地柄ゆえ,自治体が指定した公的避難所ではなく,集落内の民家などで避難生活を送っている町民も多くいる。その被災者のライフラインをカバーするのが在宅避難地区情報なのである。ここでは集落ごとにルールが決められ,その取りまとめ役が救援隊の窓口となる。大都市ならば行政からこぼれ落ちてしまいそうな人々を,いわば「女川方式」ともいえる今日的な「講」組織により支えているのである。

■営業再開情報
 今回の震災による地震,津波により,女川町は町の実に80%近くが甚大な被害を受けた。被災地から送られてくる多くの写真を見た限りでは,無傷で残っている建物はほんの僅かであり,その被災地の様相は,あたかも広島型の核爆弾が投下された様な状況なのである。そんな中でも立地上,奇跡的に大きな被災を免れた商店,水産加工会社が,震災直後から徐々に操業を開始している。
 その中でも不自由な避難所暮らしをする被災者を勇気づけたのは,テレビ東京の番組『ガイアの夜明け』でも取り上げられた老舗蒲鉾屋の「高政」である。「高政」は,震災直後から工場を操業し,揚げたての温かい蒲鉾を,避難所にいる町民に配って回ったのである。集落喪失の危機にある中,この女川のソウルフードは,人々に震災を生き抜く力を与えた事であろう。
 この『うみねこタイムズ』では,そうした商店の営業再開情報を詳細に掲載している。食堂,理髪店,新聞販売所など,まだ数えるほどしかないが,やがてこの欄の賑やかになり,復興の狼煙があがっていくのであろう。
 
※なお,『うみねこタイムズ』は,公式webページにてpdfファイルで閲覧する事ができる。
http://web.me.com/onagawa/Site/Umineko_Times/Umineko_Times.html

【付記】
 今回の大きな震災で,事あるごとに比較される2つの発電所,即ち,東京電力の福島第一原子力発電所と,東北電力の女川原子力発電所。そのあまりのコントラストの違いに驚くのであるが,それにも増して複雑で,尚且つ興味深かったのは,しばしば“原発”と言われて人々に忌み嫌われ,本来は人間を寄せ付けないはずの原子力発電所という空間が,自然発生的に住民の避難所となっている事である。この事実をどう評価するかは人それぞれであるが,まだまだ考察の余地が多々ある。少なくても私が知る限り,このような空間は世界においてここだけにしか存在しない。そしてこの発電所は,女川という伝統的な漁撈集落の一角をなす村落共同体の一部となっている事はまぎれもない事実である。

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