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12. Mai 11

【映画】団鬼六原作/石井隆監督『花と蛇』(杉本彩主演)

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 わが国の大衆官能小説の巨匠・団鬼六逝去につき,監督と主演が異なる同名の作品を2本見る。
 『花と蛇』は,ブラック企業の妻が借金のかたに売り飛ばされ,そこで拷問,凌辱の限りを受けるという,官能小説の古典的様式美。この辺りは永田守弘の『官能小説用語表現辞典』に詳しいが,数々の耽美的にして密度の高い字面,その質感によって表現される官能文学を,隠密性と余白を失わずに映像化できるのかが,いわゆるAV作品とポルノグラフィーの大きな違いである。
 主演を務めるのは女優の杉本彩だ。杉本はアイドル時代から確かにセックスシンボルとなりえていたようであるが,この様な成人映画で裸体を晒すのは初めてであり,石井版『花と蛇』が公開当時から話題になったのはこのような理由もある。

 団鬼六文学の様式美で忘れてならないのは,その代名詞でもある「縄」である。生贄となった女の身体が,数人の男たちによって縄で縛られていく。縄の圧迫による鬱血,各部位への食い込み具合の描写などから女の身体の膨らみと柔らかさが表現されるのである。こうして自分の意思に反した限界領域にまで折り曲げられ,畳まれ,不自由に変形した身体が完成する。この1つの異形となったオブジェは,性愛の対象としてではなく,ありきたりの人間性も排除された有機端末として,数々の凌辱的な入力信号にエロティカルに反応するのである。

 映画の見所は,ブラック企業主催の秘密クラブに売り飛ばされた杉本彩が,裸体を晒しながら縄で宙釣りの柱に磔刑されていく場面である。不安定に揺れる杉本の裸体と,縄で軋む音は,文学的世界とはまた異なった美しさがある。この怪しさや隠密性は,古くは円形小屋のサーカスや見世物小屋で受け継がれてきたものだ。暗幕で覆われたこの空間は,その数ミリの僅かな布の被膜に覆われただけの脆弱な空間である。そこに充満する悪趣味な見物人たちの想念,情念は,今にも破裂しそうにこの空間を膨張した高圧環境に仕立て上げる。
 ここで奴隷となった杉本は,呼吸,排尿といった生理的行為の自由も奪われ,その恍惚の表情が,次第に人格が崩壊していく「知性」を見事に演じている。口には開口弁が設けられた猿轡が施され,天井から吊り下げられたガラス製のイルリガートルから,やや白濁した液体を無理やり注がれる。このぬらぬらとしたイルリガートルの質感と形状は,この場にいれば誰しもが男性器を想起するものである。そして暫くしないうちに膀胱に満たされたその液体が,杉本の裸体を伝わって床に滴り落ちる仕掛けである。この時,この縄で磔刑された女の身体は,1本の管の様な,あるいは,蛭やミミズのような実にシンプルな環形動物の様にも見えてくる。
 おそらく何百年も続いてきたであろう,人間の想像力と欲望の限りを尽くした鬼六文学の美しさを映像で表現した作品であった。

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