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17. Mai 10

【アート】格闘写真家・齋藤陽道の空間と身体

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鶴園誠(ドッグレッグス所属)=撮影・齋藤陽道

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霊子(ドッグレッグス所属)=撮影・齋藤陽道

 昨年、新人写真家の登竜門である『写真新世紀』で齋藤陽道という写真家の作品が入選した。作品は日常の心象風景を撮影したものだった。そして先日、その齋藤の新作が、あるプロ格闘技団体の会場にポストカードとして並べられていた。この2点の作品が齋藤の作品である。
 写真家・齋藤陽道には、実は写真家とは別の格闘家という顔もある。そして現在も創作活動と平行し、格闘家・「陽ノ道」として障害者プロレス団体ドッグレッグスのリングに上がっているのだ。彼は聴覚障害者である。リングに上がる時も他の選手たちのような派手な入場テーマもなければ実況解説もない。それは陽ノ道自身が、観客も自分と同じ静寂な空間で肉体と肉体がぶつかり合う情況を体感して欲しい、という意図から考えたものでる。
 これまで3度ほどリングサイドで陽ノ道の試合を観戦したが、そこにはたしかに静寂の中で広がった創造力をかきたてる空間が存在した。「音」が無い空間は他のものに注意が向けられる。それは選手がマットに倒れた時の振動や、打撃で赤く腫れあがっていく選手の身体などだ。陽ノ道が他の選手とタッグを組む時は、タッグの選手もマットを必死に叩き、その振動によってリングの上にいる陽ノ道に様々な情報を伝え、レフェリーも小さなホワイトボードで試合の経過を伝える。
 この空間にはいわゆる健常者といわれる我々には計り知れない未知の身体性が広がっているのである。ドッグレッグスの試合はいつも様々な工夫を凝らし、その面白さを伝えている。例えば、立位が可能な選手と下肢に障害がある選手が試合をやる場合、立位が可能な選手の下肢は拘束具で固定され、全く同じ条件で戦う事となる。この場合双方足を使って移動ができないため、必然的に接近戦でのノーガードの殴り合いになるのだ。それは見た者でないとなかなか伝わりにくいとは思うが、ボクシング・ヘビー級の様な迫力なのである。選手たちの身体の中で僅かに残された健常な部位が究極なまでにビルドアップされ、まさに人間凶器となった彼らがギリシャ兵の如く戦うのである。これはもはや“ハンディキャップ”として我々の目に提示されるものではなく、異能の身体を持った者どもの究極のバーリトゥードなのだ。
 聴覚障害者の齋藤陽道は、格闘家・陽ノ道として毎回このようなリングに上がり続けてきた。ここに紹介した2点の作品もドッグレッグス所属の格闘家達を被写体にしたものだ。
 車イスに片足で乗っている鶴園誠は、世界障害者プロレス・スーパーヘビー級障害王のタイトルを持つレスラー。実は鶴園は、昨年開催されたドッグレッグス「8・1成城ホール大会」で、ここで紹介する陽ノ道と無差別級選手権試合を戦って、なんとこの王座は陽ノ道に譲り渡してしまったのだ。現在ドッグレッグスの中では一番のライバル関係である。そしてもう1点の作品は、同じくドッグレッグス所属の女性レスラー霊子である。彼女は昨年の「4・25北沢タウンホール大会」で初めてリングに上がった新人レスラー。40代で筋委縮症を発病し、子育てをしながら格闘家活動を続けている。
 『写真新世紀』でデビューを果たして以来、齋藤陽道の被写体は専ら彼らの様なマイノリティと言われる人々である。齋藤は兼ねてから、このような人々を被写体に収めたいと言っていた。彼はそこに「尊厳」を焼き付けたいと言う。しかしそれはいわゆる社会的弱者の尊厳を意味するものではなく、もっと普遍的なものである。音の無い世界にいる齋藤は、リングでは無言で相手と殴り合う。自分よりも強い相手との指名試合も積極的に行うのだ。この行為は文字どおり、齋藤にとってのプロレス的「肉体言語」の帰結であり、言葉を交わす事のできない相手との唯一のコミュニケーション手段なのである。
 そんな齋藤陽道にとって写真という表現媒体は、相手を殴る事ではなく、別の方法論で、言葉を交わせない選手の「言葉」と「身体」の内部に肉薄するための新たな試みである。そして齋藤は、身体障害、精神障害、知的障害、性的マイノリティといったあらゆるマイノリティと写真表現の現場で向き合っている。リングの上で殴られるのと同様に、被写体からは相当なリアクションが当然あるであろう。聴力と言語を持つ我々は、そのようなリアクションは全てノイズとして処理してしまいがちであるが、齋藤は逆に、そのノイズとして日常空間にこぼれていく声無き「声」を一つ一つ丁寧に拾い上げて被写体に焼きつける。そうして焼きあがった作品は、もはや“ハンディキャップ”とは到底言う事は出来ない超然とした彼らの姿を映し出すのである。

■齋藤陽道公式サイト■
http://www.saitoharumichi.com/

■障害者プロレス『ドッグレッグス』に関する記事■
【格闘技】コミックマーケットにドッグレッグス参上!(8月16日,東京ビッグサイト)
【格闘技】ドッグレッグス第79回興行 『きっと生きている』(2009年8月1日,成城ホール)
【格闘技】ドッグレッグス第79回興行 「きっと生きている」の対戦カード第一弾が発表される
【格闘技】ドッグレッグス第78回興行 「ここまで生きる」~究極のバーリトゥード~(4・25 北沢タウンホール)
【格闘技】ドッグレッグス第78回興行の対戦カードが決まる
【格闘技】ドッグレッグス第77回興行レビュー
【格闘技】ドッグレッグス第76回興行レビュー
【映画批評】天願大介監督『無敵のハンディキャップ~障害者プロレス・ドッグレッグス」

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Kommentare

突然のコメント失礼します…
鶴園誠さんって もしかして小さい頃 鹿児島の施設にいた方でしょうか?

Kommentiert von: まりこ | 01. Februar 14 um 01:16 Uhr

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