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06. März 10

【書評】 上田篤著 『都市と日本人―「カミサマ」を旅する―』(岩波新書)

 少し前の話になるが、「日本は『神』の国」と言って批判を浴びた総理大臣がいた。「日本は『神』の国」という発言の一体どこが悪いのであろうか。
 欧州キリスト教社会のような国教の存在しないわが国・日本は、神仏混交の「八百万神」(やおよろずのかみ)と共存してきた。これは「神」であっても西洋のGODのように帰依するものではなく、村落共同体の中でカミサマとして祀ってきたものである。神話に基づけば、日本にはその名のごとく800万ものカミサマが存在しているのだ。まさに「神の国」ではないか。
 日本にいるカミサマの中には、他国の土着信仰にも見られる海、山、川などの自然物を司るカミサマももちろんいれば、茶碗、農機具などの物を司るカミサマもいる。物に何者かが宿るという「物の怪(け)」という感覚は西洋人にはなかなか理解できない。例えば「針供養」。これはもともと裁縫道具である縫い針を供養するものだが、今日実際に「針供養」の会場に行くと、時折注射針を供養に持ってきている医療関係者の姿を見かけることがある。その他にも、日本全国に無数にある神社・仏閣の中には航空機を祀る神社まで存在する。
 また、柳田國男の『遠野物語』に登場する男性器の形状をしたコンセイサマ(金勢様)や、山形、新潟地方で伝承されている「ツツガムシ」信仰などは、村落共同体における五穀豊穣や疫病退散という生活に密接した部分で役割を果たしている。
 つまり我々日本人は、それを意識しなくても、実に多くのカミサマに囲まれて暮らしているのである。文化人類学においては、ながらくこのような信仰的概念は、未開文明の原初的なるものとして低位に扱われてきたが、むしろ、このカオスの中で熟成された豊かさがあるからこそ、 わが国は他に類のない多くの創造的なものを生み出してきたとも言えのである。それは例えば宮崎駿が描く『もののけ姫』の世界観であり、または古くは『鳥獣戯画』に源流を求めることができる「怪獣」という文化もわが国独自のものだ。円谷特撮に代表されるわが国の「怪獣」は、単に既存の生物が巨大化しただけの西洋の「化け物」とは明らかに異なる。
 そんな豊かに暮らしてきたはずの日本人が、都市の生活の中ではどんなカミサマと共存しているのであろうか。そんなカミサマの源流を探ったのが本書、『都市と日本人―「カミサマ」を旅する―』である。

 著者の上田篤は小松佐京や羽仁五郎らとも親交がある戦中派である。この時代特有の、戦前、戦後の断絶した世界を生きてきた人物である。戦争が終わると、戦前の教育が全て否定され、今度は、戦後民主主義の中で興った学生運動にも挫折していった世代だ。京大闘争の時には毛沢東の農民蜂起を習った「山村工作」で農村に入ってはみたものの、それは単に闘争のためのイデオロギーであって、そこには血の通った農村との交流がなかった事に深く傷ついて、運動から離脱していった1人である。
 ちょうどこの頃に上田がたまたま出会った本が、文化人類学者きだみのるの『にっぽん部落論』であった。上田はこの本との出会いによって、農村集落における常民としての暮らしに深く関わりながら、日本の生活文化全般を都市論も踏まえ、地政学的に考察していくという上田の研究スタイルを導くきっかけともなった。
 本書、『都市と日本人―「カミサマ」を旅する―』は、都市の中で暮らす現代日本人の中にいきづくカミサマ、そして都市と隣接する空間に存在するカミサマについてフィールドワークしている。その対象は、日本人が古くから特に信仰の対象としてきた名山や参道、そして公園、山の学校、地方都市の私鉄沿線、町屋、甲子園球場と多岐にわたり、カミサマのいそうな場所を訪ねている。この本を読むと、やはり「日本は『神』の国」と思えてしまう。ちなみに、著者は特段に阪神ファンではないが、仮に甲子園球場が神殿であらば、そこには超分散的極小集団における「神のネットワーク」が存在し(すなわち阪神ファン)、そのカミサマは六甲山であろうと締めくくっている。

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