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10. Februar 10

【医学史】 都議会議員・土屋敬之氏が語る『ヒポクラテスの誓い』(ブログ「今日の“つっちー”」より)

 元民主党の都議会議員にして,今や行動する保守政治家のオピニオンリーダーとして国憂う国民からも人気が高い土屋敬之さんが,2月7日付のブログの中で『ヒポクラテスの誓い』を引用するかたちで,自らの生死観や尊厳死,終末期医療のあり方について語っているのに目を惹いた。
 土屋さんは“つっちー”の愛称で親しまれている保守政治家であり,民主党結党当時から民主党に所属していた議員である。当時,土屋さんと意を同じくしていた民主党の仲間たちは一足先に党を飛び出して,今は自治体首長となって活躍されている。そして最後まで残っていた土屋さんも,昨年の街頭演説会にて,“民主党をぶっ壊す!”“機動隊のバリケードを突破して,本会議場に突入するぞ!”との発言が不味かったのであろうか,ついに民主党から除名されてしまったそうだ。しかしその事で萎むどころか最近ますます行動的になっていく土屋さんの人気は上がる一方である。
 「今日の“つっちー”」と題したブログは,土屋さんの一貫した保守政治理念に基づく政策の提言,政局の分析が主たる内容だが,2月7日に目にした記事の内容だけは,今までのものとは明らかに雰囲気が異なる。冒頭からいきなり『ヒポクラテスの誓い』で始まるこの日の日記はかなりのインパクトである。今まで土屋さんのブログを毎日読んできた者にとっては,一体何事かと思うであろう。

 『ヒポクラテスの誓い』は今更説明するまでもないが,古代ギリシャの医学者ヒポクラテスが,医術を学ぶ弟子たちに医道について説いた言葉であり,これが後に彼の弟子たちによって「宣誓」として継承されていった。土屋さんのこの日のブログに貼られている蛇と杖のアイコンは,ギリシャ医学のシンボルであり,ギリシャの医神アスクレピオスが手に持っているものだ。杖に絡みつく蛇は「癒し」「医薬」の象徴である。このシンポルは今日でもWHOをはじめとする医療機関も採用している。(因みにスタートレックに登場する宇宙船の医療室のガラス窓にもこのシンボルが描かれている)
 私も大学の講義では一番最初の講義の中で,必ずこの『ヒポクラテスの誓い』と,蛇と杖のシンボルの意味について学生らに教えている。
 ヒポクラテスが言ってる事は,現代の我々にも通じるところが多々ある。もちろん後のルネサンス以降の医学によって,彼の唱えた説の中には科学的に覆されたものも存在する。例えばアリストテレスやガレノスも採用した「四体液説」が最も有名な例だ。「四体液説」というのは,人間の体には血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の4つの体液が存在し,そのバランスを欠くことで人は様々な「病」になる,と考えるものである。これは後にレオナルド・ダヴィンチによる人体解剖学やハーベイの血液循環説によって覆されるが,理念そのものも否定してしまうものではない。「四体液説」は身体のとらえ方の一つの認識であり,この認識は意外にも古来の和漢医学にも繋がるものでもある。つまり人間の身体の有り様を「バランス」で認識したものであり,人間が健やかに暮らすには何事も「バランス」が大事であると考えるのは現代の我々でも同様である。

 さて,土屋さんがこの『ヒポクラテスの誓い』をどのように捉えているのかというと,弟子に医道の理念を説いた誓いについては基本的に賛同はするものの,現代医学の状況――例えばそれを取り巻く終末期医療の問題,尊厳死の問題,介護の問題などを想定していないヒポクラテスの言う事は,今日においては必ずしも万能ではない,とのことである。確かに,もともと『ヒポクラテスの誓い』は,古代ギリシャでは「神」に存在が近かった医学者がギリシャの医神に誓ったものである。翻って今日,土屋さんが言うように,「神」から「人間」となった医師にとっては『ヒポクラテスの誓い』だけではフォローできない問題の方が多いのである。それを何によってフォローするのかを考えるのは政治家の仕事でもある。

 政治家が自分の生死観について語るということがそんなに異例な事かといえば,そうではない。むしろ本来ならば,政治家こそが率先してこのような人間の哲学の根本に関わることも国民に語るべきなのである。近頃,理念無き政治家が多いと言われるのは,何も巨額の脱税や政治資金規正法に抵触するようなことをやっても平然としているような輩がいるからではない。そんなことは表層の問題にすぎない。誰とは具体的には言わないが,政治家の言葉の中に哲学や美学が一向に見えてこないから汚い部分だけが目立って仕方がないのだ。
 今まで政治家が政治の場で自らの人生観,哲学について語った例としては,「がん対策基本法」(平成十八年六月二十三日法律第九十八号)の制定に尽力した故・山本孝史参議院議員のことが思い出される。山本議員は自らが癌に冒されたことで,わが国の癌患者を取り巻く状況があまりにも過酷であることを目の当たりにして,癌における予防医療や癌患者における様々なQOL向上のために超党派で「がん対策基本法」をライフワークとして取り組んだ。
 2月7日のつっちーブログを読んで,土屋さんが山本孝史さんと同じ状況にあるのか否か,あるいは,何らかのきっかけがあって,改めて自分の生死観,医療のあり方について提言されたのかは定かではない。しかし,文章の行間からは,まさに文字通りの「政治生命」を賭けた重大な誓いであることは読み取れるのである。
 今後,土屋敬之という一人の政治家が,『ヒポクラテスの誓い』の理念をどのように「言葉」と「身体」で体現していくのか,私も注視していかねばならないだろう。(※この記事を書き終わった後,土屋さんのブログは『尊厳をもって死ぬ権利・追加版』として加筆,更新されていた。2月10日に書き改められた記事は,さらに深い内容となっている)

都議会議員・土屋敬之公式ブログ「今日の“つっちー”」
http://www2u.biglobe.ne.jp/~t-tutiya/cgi-bin/sf2_diary/sf2_diary/

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