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14. Februar 10

【書評】 福本和夫著 『日本捕鯨史話―鯨組マニュファクチュアの史的考察を中心に―』教養選書No.83(法政大学出版局)

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 “自称”環境保護団体シー・シェパードによるわが国捕鯨船に対する無差別テロ行為が止む気配がない。国家主権意識、国防意識とも極端に欠如したアマチュア集団の現政権は、困った顔をしてただこの状況を見ているだけである。石破前農水相が提案した海賊対策に関する法案も凍結したままだ。テロリスト相手の戦いにおいては、“9条バリアー”や“原子力潜水艦 「遺憾の伊」号”などは通用しないのだぞ。
 シー・シェパードをめぐる一連の論争の舞台は、単なる環境問題の域を超え、エコ利権、白豪主義による人種差別問題へと広がりつつある。シー・シェパードの日本を標的としたテロ行為を見ていると、捕鯨を行っているのは日本だけと思われてしまうがそうではない。日本に近代的な捕鯨技術を伝えたノルウェーも代表的な捕鯨国である。しかしあのテロ集団がノルウェー捕鯨船を攻撃しているところを見たことがない。それもそのはずで、本来、公海上でテロ行為を行えば、他国ならば間違いなく海軍が出てくるからである。
 わが国は他国のようにただちに海軍兵力を派遣するような事が出来ない。そのことを知っていて、あのテロリストたちは日本を執拗に攻撃しているのである。ここでもしわが国イージス艦が出て行って、ミサイルでも一発放てば、彼らはもう二度とこのようなことはやらない。試しに、ハープーンミサイルであのテロ船を一艇撃沈してみればわかる。

 実は、こんなテロリストどもにぜひ読ませたい本が手元にある。福本和夫が記した捕鯨史に関する本だ。福本和夫はわが国近代思想史の中においてはマルクス主義の本流をいく共産主義思想家として位置づけられているが、思想家としての福本和夫の他に、産業技術史研究家、捕鯨研究家としての顔もある。特に晩年は捕鯨史の研究に膨大な時間を費やし、わが国の捕鯨文化というものを、産業史、工業組合史、常民文化史、漁業史といった実に多岐にわたる視点で考察し、あらためてわが国の捕鯨文化の豊かさを掘り起こすことを試みた人物である。
  『日本捕鯨史話―鯨組マニュファクチュアの史的考察を中心に―』と題した福本の研究書は、数年前、私がシーボルトの文献収集のフィールドワークをするために長崎に滞在していた時に地元の古書店で見つけたものである。
 まずこの目次だけでも見ていただきたい。図版や年表といったアーカイヴも網羅したこの研究書は、福本和夫の捕鯨研究における集大成であり、最高傑作であろう。この本の中には、「近世―近代」から「現代」にかけて、鯨文化とともに活き活きと暮らしてきた常民としての近代日本人の姿が描かれているのだ。これを民俗伝統文化と云わずして何と呼ぶのか。捕鯨を単にエコ思想、地球市民思想に置き換えて批判するものどもに、私は反証としてこの本を明示したい。

福本和夫著 『日本捕鯨史話―鯨組マニュファクチュアの史的考察を中心に―』教養選書No.83(法政大学出版局、初版1960年7月15日)
【目次】
第1章 「鯨の生態と効用」

鯨の路―鯨の廻游/上り鯨・下り鯨/象の眼のような鯨の眼/日本で鯨が魚類でないことを説いた先覚者/鯨の尾の威力/森鷗外の鯨の歌/鯨の大敵シャチ/鯨の年齢調査に成功したかくれた研究家天野太輔氏/明治20年代までの鯨の用途/拡大し発展した鯨の利用方法/鯨ヒゲの用途/木綿弾弓の発達と鯨の筋/昔の鯨油の用途と一頭からとれる量/昔の捕鯨の費用と収益/捕鯨に関する藩の課税/アラビア人による竜涎香の東西通商史/捕鯨業の時代区分と鯨の種類別―セミ鯨からマッコウ鯨へ、そして今日はナガス鯨の時代である/鎖国日本を開国させたのはある意味では、アメリカ捕鯨業であった

第2章 「わが捕鯨方法発展の五段階」
わが捕鯨方法発展の五段階/日本捕鯨の発展段階年表/年表附註スヴェン・フォインのこと/突取法以前の捕鯨/日本古代の原始的な網取法/日本は古来から網取が得意であった/原始的形態のワナとアミ/古代日本に原始的な網取捕鯨法のあったこと/網取捕鯨法と鰤追網との類似点/万葉時代の彩色船/突取捕鯨の先駆者が三河、尾張であったわけ/突取捕鯨法初期の規模/日本捕鯨史上における寛文・延宝初期の意義と紀州太地浦の役割/沖網漁船の長桹と勢子船の狩棒/勢子船・砧踊の名称と網取捕鯨法/太地浦の網取捕鯨と西鶴の「日本永代蔵」/捕鯨業はたいてい海賊の盛んだった地に栄えた/捕鯨についての書いた最初期の人々

第3章 「欧米人・中国人・アイヌ人の捕鯨と比較して」
欧米の捕鯨方法発展の五段階/銛の役目とボンブランスの役目/中国の捕鯨方法/アイヌ人の捕鯨方法/わが網取捕鯨技術の六つの特徴点―併せて網取捕鯨法の限界点

第4章 「わが沿岸網取捕鯨業の発展」
網取鯨組マニュファクチュアの規模―製銅に次ぎ製鉄に匹敵する大規模であった/鯨商人とサバ船のこと/九州における捕鯨場の増加/長崎万屋町の鯨の山車と玩具/長崎万屋町の鯨の山車と小林作太郎の自動カラクリ鯨/益富組の漁場数/益富組の紋章/鯨組のマニュファクチュアの人的組織/鯨組主和田、多田、醍醐、深沢、益富等の家系と生活/和田氏系譜中抜粋/刃刺の任務・等級・昇進・修養・生活など/銛の投げ方/銛の役目と劔の役目/手形切り/納屋(鯨体処理工場)/鯨組の生活規律/鯨組の服装/組出の儀式ならびに初穂のこと/鯨供養のこと/刃刺踊とその唄/わが鯨船の種類・特色など/網取法時代の通鯨数と捕鯨数/鯨船を軍船に充用するために新造した吉宗/頼山陽の「水戦論」と捕鯨実習

第5章 「土佐津呂組の捕鯨」
「津呂浦捕鯨誌」の内容項目/「津呂浦捕鯨誌」の参考書目/津呂浦捕鯨組の開祖多田五郎右衛門のこと/万治三年にかけての(すなわち日本近世学芸復興期の始期における)捕鯨復興と津呂組中興の祖多田吉左衛門のこと/捕鯨年代記/津呂浦鯨組の使用人員数/土佐藩と津呂捕鯨組との関係/船頭などの勤続年数と副業/鯨組の階級制と風紀/土佐の捕鯨統計表/器具の二、三について/鯨の汐吹きについて/鯨の交尾について/鯨の長さ測定法/経営主体の変遷

第6章 「ノルウェー式捕鯨法が何故まず日本海方面ではじまったか」
日本海沿岸の捕鯨業/その規模と特徴の二、三/ノルウェー式の採用に長州仙崎が先駆したわけ

第7章 「わが捕鯨図説の四系統」
わが捕鯨図説の四系統/捕鯨図説四系統年表/木崎絵巻の作者は「肥前物産図考」の著者/捕鯨絵巻中の圧巻/捕鯨業の宣伝につとめた平戸藩主/蘭方医大槻磐水の鯨研究/司馬江漢の「生月島捕鯨図説」/わが鯨体解剖学の発達/わが鯨解剖学発達年表/「鯨史稿」の性格・識見とその成立/「勇魚取絵詞」の成立と特色

第8章 「わが漂流船と英米遠洋捕鯨工船との接触」
アメリカ捕鯨の太平洋進出年表/太平洋への漂流船と英米捕鯨工船との接触/太平洋上の遠洋捕鯨船とハワイ/漁夫五郎の視察した水戸沖の英国捕鯨工船/万次郎の救助された米国捕鯨船/米国捕鯨船で乗りまわした万次郎の見聞と体験/帰還後の万次郎は幕府に建議して小笠原へ捕鯨に乗りだした/米国遠洋捕鯨船の規模/彦蔵漂流記とサンドウィッチ島の捕鯨船

第9章 「近代式捕鯨への過渡期」
憲政以後の日本における捕鯨銃法への傾向の発展/漂流記「蕃談」の米国捕鯨工船図/浮世絵師周延の錦絵捕鯨図/太地浦前田兼蔵発明の捕鯨銃/太地浦の末期現象―漂流の一大悲劇/紀州の串本・大島におけるノルウェー式捕鯨業は岡十郎の東洋漁業会社によってはじめられた

第10章 「近代式沿岸捕鯨とは母船式遠洋捕鯨」
日本におけるノルウェー式捕鯨業の開祖、岡十郎/これより先、ロシアが朝鮮近海でノルウェー式捕鯨業を開始した/明治の海事小説家江見水蔭の「実地探検捕鯨船記」/近代式捕鯨資本家としての中部幾次郎と山地土佐太郎/大型鯨を対象とする近代式近海捕鯨/小型鯨を対象とする近代式近海捕鯨/戦後私のみた乙浜・太地浦の近代式小型捕鯨船/近代式近海捕鯨の中心地は北上した/母船式遠洋捕鯨/電気銛の改良/船団作業員の訴え

第11章 「研究余話十三章」
鯨の和名・漢名/鯨・鰉(蝶鮫)と中国文学/鯨を研究した本草家・医家/蘭医シーボルトと日本の捕鯨業/「本朝食鑑」の鯨論/捕鯨と明治の文豪/アイヌの鯨祭とそのうた/鯨捕りをうたった加納諸平/丸山薫の詩「鯨を見る」/鯨の落語/鯨幕のこと、鯨のだんまりのこと/勝間竜水の鯨図/長沢蘆雪の捕鯨図/壱岐の岩窟壁画の捕鯨図

第12章 「本書の特色は日本ルネッサンスとマニュファクチュアの見地からした総合・比較研究にある」

追補
生月島の勇魚取絵図詞と露伴の小説いさなとり

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