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08. Februar 10

【名古屋芸術大学・芸術療法講座】 学生の2009年度最終レポートを読む(1) ~「サンクト・ガレン修道院平面図を題材とした演習―「医療」と「アート」が理想的に融合する患者と市民のための空間を設計する―」

 芸術療法講座の2009年度最終レポートをようやく読み終わる。2009年度の最終レポートは,「サンクト・ガレン修道院平面図を題材とした演習―「医療」と「アート」が理想的に融合する患者と市民のための空間を設計する―」
 芸術大学の学生だけあって,奇想天外な内容のものが多い。最終レポートを取り組むにあたってのガイダンスでは,サンクト・ガレン修道院のもっとも有名な復元図を学生に渡し,これを叩き台にするように説明した。また,古代ギリシャのポリスで誕生したホスピタルという空間が,いわゆる病院の機能を備えた近代的ホスピタルへと分化していくプロセスで,修道院という空間が大きな役割を持っていたことをもう一度振り返り,その象徴としてサンクト・ガレン修道院という空間が存在していることを説明した。
 学生がこのサンクト・ガレンという空間にどのようにアプローチしていくのかも重要であるので,詳しい情報についてはあえて解説していない。したがってこの空間の図書館の設計が非常に特徴的であることなども,学生自らがこの空間について文献をたどるなりして知り得ることである。

 それでは,最終レポートの中で,奇想天外な発想をしながらも,今日的な医療システムなどの問題に深くアプローチしているもの,講義の内容を集大成としてよく理解しているもの,アートの側から医療現場に対して問題を具体的に提起したものなどを順に紹介していく。

レポートタイトル:「ガレンピック」(デザイン学部デザイン学科2年)
 これは,サンクト・ガレンを障害者,病人,市民のための五輪会場にする,という奇想天外なプランである。この学生はまずこの発想にいたった理由として,サンクト・ガレン平面図を最初に見た時に,陸上競技のトラックをイメージしたとある。そして次に,芸術療法講座集中講義の中で見た障害者プロレス「ドッグレッグス」の試合の映像を思い出し,ここの空間を患者と市民のための五輪会場にしようという結論にいたったそうである。
 ここでは「患者」「市民」「障害者」がバリアフリーな空間でコミュニティを形成していく可能性を示唆している。この「ガレンピック」なる五輪大会は市民により作られる五輪であり,その市民の中には病人も医療従事者もそれぞれ役割をもたらされて参加することになる。つまりこの空間では通常の医療空間,または介護空間における「医師」-「患者」,「介護者」-「利用者」(障害者)といった転置が不可能な硬直した関係があるのではなく,市民一人一人が対等に役割を与えられている,ということが重要である。競技に参加できない者は運営委員となり,大会マスコットやポスターの制作といった仕事も与えられている。また,すべてが自治体予算による市民の手作りであるので,この類の街のイベントを喰いものにする起業塾系NPOや広告代理店は一切介入できない仕組みとなっている。つまり五輪に参加する市民一人一人がスポンサーなのであり,近代五輪の基本的精神に立ち返ったものである。

 具体的な競技についてだが,陸上,近代五種,格闘技などである。それぞれ身体の障害によって階級分けされて競技が行われる。このフォーマットはドッグレッグスの世界タイトルマッチで採用されているものだ。もし肢体が不自由な者と健常な者が戦う時には,健常な者の肢体は拘束具で同じ条件に拘束される。そして残存する自由な身体で身体性のポテンシャルの限りを尽くすという戦いになる。会場には天皇や各国首脳のために貴賓席も設けられているので,事実上の天覧試合のようなものが展開されるのであろう。
 障害者の格闘技は,視野狭窄した道徳論からは,“障害者を見せ物にしている”という理由で批判の対象となるが,古代ギリシャまで遡れば,格闘技そのものがサーカスと同等の見せ物であったわけで,そのような興行的なことを障害者が行った時だけこのような批判がもっともらしくおこる事こそ,人間のポテンシャルを無視した障害者に対する差別とはいえないだろうか。

 サンクト・ガレンという空間をこのような身体表現によるバリアフリーなコミュニティに設計したこのレポートは,障害者医療にとどまることなく,多くの示唆に富んでいる。まず第一に,平面図から陸上競技のトラックを発想するという感覚は,芸術大学の学生ならではの感性ではないだろうか。そしてトラック競技からイメージを広げていき,最終的には古代ギリシャ的な五輪までに発想がたどり着くあたりに必然性を感じる。
 学生らが今回取り組んだ最終レポートは,大きくわけて二つの方法論が存在する。その一つは,サンクト・ガレンという空間を美術史的に,あるいは医学史的に定義づけ,その概念から空間設計を試みたもの。そしてもう一つは,例えば「ガレンピック」のように,平面図そのものからビジュアル的に発想を得て設計されたものである。双方の論の展開はまったく異なっているが,講義の大きなテーマである「医療」と「アート」,または「医学」と「芸術」,その関係性の中にあらたなコミュニティを形成していくという試みに挑んだ痕跡が充分に読み取れるものである。

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