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11. Dezember 09

【書評】 三橋貴明著 『民主党政権で日本経済が危ない! 本当の理由』(アスコム)

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 年末になって週刊誌や新聞の中吊りに「鳩山不況」「民主大恐慌」などという文字が躍るようになった。特に『週刊朝日』の狼狽ぶりは見ていて面白い。何を今更という感じである。
 これほどまでにデフレギャップが亢進し,経済が停滞している時に,民主党がデザインするマルクス主義をトレースしたような緊縮財政をやれば,このような事態になることは最初から分かっていたことである。それを承知で朝から晩まで“政権交代”を愚衆に喧伝しまくったマスメディアは,恐竜のようにとっとと滅びればよい。新聞社やテレビ局が2つ3つ潰れたところで困る人はいない。しかし,日本という国が無くなっては困るのである。

 このたび,経済評論家の三橋貴明が『民主党政権で日本経済が危ない!本当の理由』(アスコム)を上梓した。内閣府などの公式統計資料をソースに分析された経済書である。
 この本を読んでみて思ったことなのだが,大きく分けて2つの相対する評価が上がって来るであろうと予想される。その一つは,民主党に対する単なるネガティブキャンペーン本と捉えようとする勢力(仮にこれをタイプAと規程する)。そして,もう一つは,民主党政権になって変化した現在の日本経済の状況の詳細を知って,ただただ恐ろしい思いをする人たち(タイプB)ではないであろうか。
 この差異はどこに起因するかといえば,タイプA群の人たちはマクロ経済をまったく理解できない人であり,タイプB群の人は,多少なりともマクロ経済を理解している人である。そして,タイプB群の中には,今まで何となく平穏に暮らしてきたのだが,知らなくても良いことまで知ってしまって,今まさに戦々恐々としている人々も含まれる。
 「自民党にお灸をすえたつもりが,実は自分が大やけどをしてしまった」という状況の,潜在的「お灸」層の人たちだ。彼らは,「子供手当」に一瞬喜んでみたものの,まさか自分の配偶者の勤務先が倒産することなど想定していなかった。また,自分が関わっている文化活動や学術研究に事業仕分けで「廃止」の審判が下るとは思ってもみなかったのであろう。
 だから現在,「こんなはずではなかった!」という民主党に対する激しい憎悪の念が熟成しつつあるのである。また加えて,マクロ経済に精通している者であれば,現政権下における日本経済の絶望的な未来図を明確に想像できるので,この本を読むと,心底恐ろしい思いをするのである。いわばこれは同時代性をもって書かれた,経済版「真・よげんの書」なのである。我々はこれから,リアル「20世紀少年」の世界を体験させられるかもしれないのだ。

 著者の三橋貴明がマクロ経済入門者に対していつも分かりやすく提示しているチャートが2つある。
 ひとつはバランスシートであり,もう一つはデフレギャップである。この2つは実に明快である。
 私は最近面白い事に気がついた。それは,マクロ経済をよく理解している人は,しばしば国家経済を人間の身体に例えて話をされることである。麻生総理がそうであるし,本書の著者,三橋貴明も同様である。
 麻生総理は昨年と今年の渋谷,池袋の街宣で,「まずはカンフル剤を投入し,その後に時間をかけて体質改善だ」と言われていた。そして日本経済が回復するには「全治3年」であると。
 仮にこれを麻生総理のいわれるように国家経済を「身体」に例えると,つまり,電解質異常を起こした血漿の電解質補正とカロリー補給をやりながら,時間をかけて循環改善していくという考え方である。これは実に明快。生理学の教科書としてスタンダードであるギャンブルの「水・電解質テキスト」に符号する。(ギャンブルについては以前に専門誌に書いたコラムを参照→http://ringer.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/7_a8b5.html
 そして,三橋貴明が経済番組や講演でしばしば提示するデフレギャップの図は,生理学者ギャンブルが作成した「ギャンブルグラム」のように分かりやすい。
 デフレになるには様々な状況,要素が複雑に影響し,その経緯も様々である。ここでその時々の状況にあった補正を適正に行うことでデフレギャップは解消される。この手法を誤ると,さらにデフレギャップは悪化するのである。
 これを生理学者ギャンブルの考えに照らし合わせると,電解質異常を起こした血漿を補正するには,その電解質異常に至った経緯,状況を冷静に分析し,適切な処置をせよ,ということである。すなわち,同じ脱水症状でも,例えばアシドーシスとアルカローシスとでは対処の仕方は異なる,ということである。これを誤ると,さらに症状は悪化するのである。

 このように考えていくと,近代的輸液のメソッドとなったギャンブルによる「体液平衡」という概念は,三橋貴明やリチャード・クーのいうバランスシートで国家経済の全体像を見ていくという考え方といくつもの共通点が見いだせる。
 本来,マクロ経済について少々苦手であった私が三橋貴明の数々の経済書に書いてあることを理解できるようになったのは,何を隠そう,ギャンブルの「水・電解質テキスト」の考え方を引いてきたからなのである。
 そして現政権が今やっていることは,日本経済を心肺停止状態に至らしめることなのだ。本書『民主党政権で日本経済が危ない!本当の理由』では,その理由が非常に詳細かつ明快に提示されている。これを単なる民主党批判本だと思っている人たちは,いずれ事の重大さに気がついた時に,どんなパニック症状を引き起こすのか,詳細に観察してみたい。

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出典:「日本経済の真の問題」(2009年,三橋貴明作成)

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ジェームス・ローダー・ギャンブルによる「ギャンブルグラム」
(上)Gamble JL, Ross GS, Tisdall FF;The metabolism of fixed base in fasting. J Biol Chem, 1932, 57: 633-695
(下)Gamble JL;Chemical anatomy, physiology and pathology of extracellular fluid. Harvard University Press. Cambridge, 1942

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