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12. Dezember 09

【映画】 西崎義展監督 『宇宙戦艦ヤマト復活篇』~昭和歌謡からハードロックへのワープアウト

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 宇宙戦艦ヤマトの新シリーズ第1作目が公開された。この作品は,すでに先に行われた試写会で一度見ているが,2つの異なるラストシーンが設定されていたこともあって,映画としての完全なる完成品を見るのは今回が初めてということになる。
 宇宙戦艦ヤマトの世界は映画の設定書では西暦2192年,すなわちガミラス帝国が地球に向けて遊星爆弾による攻撃を開始した年からスタートしているが,ヤマトの前身が帝國海軍の戦艦大和なわけであるから,本来ならばその大和が誕生した西暦1941年からすでに物語はスタートしているといえる。
 また,しばしば映画ファン,アニメファンの間では,“ヤマトは一度死んだ乗組員が生き返る”と揶揄されることがあるが,それは映画シリーズの第2作『さらば宇宙戦艦ヤマト』と,同じキャストによるテレフューチャー版の『宇宙戦艦ヤマト-2』とを混同しているがために起こる誤解である。確かに,劇場版『さらば宇宙戦艦ヤマト』は多くの主役級の登場人物がたくさん死んだが,テレフューチャー版では『さらば-』で死んだ登場人物でも生き残る者もいる。そしてこれ以降制作されたヤマトの新作の映画やテレビシリーズは,多くの登場人物が生き残るヴァージョンの『宇宙戦艦ヤマト-2』の続編である。したがって,“ヤマトは一度死んだ乗組員が生き返る”と言われるのは言い過ぎであり,まずはこの誤解から解いていきたい。

 さて,今回制作された『復活篇』は,前作の『完結編』から26年を経た作品である。物語の中ではヤマトがアクエリアスの海に沈没してから17年後の世界として描かれている。実はこの間に,米国人スタッフをたくさん投入した『YAMATO2520』というOVAが途中まで制作されている。これはタイトルでもわかるとおり,西暦2520年のヤマトの物語であり,乗組員も馴染みの者はおらず,ここに登場するヤマトはシド・ミードによりデザインされたもので,もはや帝國海軍の戦艦大和の面影はない。いわば,『スタートレック』に登場する歴代のエンタープライズ号と同様な,ネームシップとしてのヤマトが登場する。このような理由から,ファンの中には,この作品だけはヤマトの正史に入れたがらない人も多々存在するようである。
 しかし今回,26年ぶりに制作された『復活篇』には,シド・ミード版『YAMATO2520』から受け継いだ良い要素もたくさんあり,結果的に『YAMATO2520』が劇場版の『完結編』と『復活篇』を橋渡ししたかっこうとなっているのは映画を見れば一目瞭然である。

 26年の時の流れは,スタッフの大幅な入れ替えをも余儀なくされた。当時ヤマトの制作に関わっていた方々で,すでに故人となられた方も多くいる。その中でもヤマトの音楽では絶対に欠かすことができない宮川泰や羽田健太郎がもうこの世にいないことが残念でならない。ヤマトの世界で魅力的なものの一つに,敵国の音楽的世界観というものがある。中でもパイプオルガンの大フーガで展開される白色彗星のテーマや,宮川泰や羽田健太郎がまるでパガニーニのように悪魔に魂を売って作ったのではないかとさえ思う自動惑星ゴルバのテーマは,おそらくわが国アニメ史上に残る敵国音楽の頂点に君臨するものであろう。
 今回新たに登場する敵国は一国ではなく,連合国で構成された“国連軍”だ。もし宮川泰が今も健在ならば,既存のクラシック音楽を劇伴にすることなく,一国ずつそれぞれに,素晴らしいスコアを書いたであろう。
 しかし,新たに加わったスタッフのおかげで,ヤマトの新しい世界観を楽しめる要素も十分にある。その中で特筆すべきは主題歌とエンディングテーマを歌っているTHE ALFEEの存在である。今だから言えるが,この作品が作られると聞いた時,主題歌を歌う候補のミュージシャンにTHE ALFEEの名が上がっていることを知って,正直に言って大きな違和感を覚えたのは事実である。「さらば地球よ~」で始まるあの主題歌は,絶対にささきいさおでなければダメだと勝手に決め付けていた私自身の中に眠る原理主義的な態度が表出した瞬間である。
 つまり,『完結編』までのヤマトの世界観は,言うなれば,昭和歌謡そのもなのだ。音楽スタッフの名を見れば宮川泰や阿久悠といった歌謡界の大御所が並んでいるのだから,当たり前である。ストーリーも,どこか日本人の琴線に触れる要素が随所にあった。そして金田伊功という不世出の作画師によって作られる質量のこもった動画は,密度の濃い昭和歌謡の世界観とも見事に符号していたのである。
 しかし,デジタル処理された『復活篇』を見た時に,そのスピーディーさやシド・ミード版のヤマトを受け継ぐような鋭敏な空間は,むしろロックがもつ疾走感や華やかさが似合う。これが意外に大発見であったことだ。悲哀に満ちた昭和歌謡,もしくは昭和演歌の世界から,ロックというカタルシスが生む空間にヤマトはワープアウトしたのである。

■SUS星間国家連合は,やっぱり「国連軍」だった
 以前は私は,『復活篇』の全容が明らかになる前に,今回の作品にはSUS(スーパー・ユナイテッド・スター)という新たな敵国が登場すると聞いて,これは「国連軍」ではないのか? という内容のコラムを書いた。(このコラムを参照→『宇宙戦艦ヤマト』 復活篇,今度の敵は国連軍だ
 スーパー・ユナイテッド・スターとは,つまり,ユナイテッド・ネイション=「国連」を想像させるということである。
 ヤマトはもともと米帝に沈められた帝國海軍の戦艦大和であったこと,それから,ヤマトも他の架空戦記と同様に,宇宙空間を太平洋に見立てて,そこで仮想の太平洋戦争を日本人視点で描く,というコンセプトも抽出できる。実際に,『さらば宇宙戦艦ヤマト』に登場する敵国の都市帝国ガトランティスは,NYの摩天楼を意識したものであるとプロデューサーの西崎義展も述べている。このような複線を考えると,どうみてもSUSは国連軍のメタファなのが容易に想像できたのである。
 そして,実際に完成された作品を見終わって思ったことは,SUS国家連合は,やはり国連軍だったということである。しかも,石原慎太郎が脚本に関わっているので,SUS司令官がマイケルムーアの『華氏911』のブッシュみたいな人殺しの悪者に描かれており,SUSから同盟を離脱する資源産出国のアマール国は,中東アラブの小国に見える。さすが,かつてシド・ミードがせっかくデザインしたエンタープライズ号みたいなヤマトを西崎義展の目の前で堂々とケチをつけた石原慎太郎だ。

■エトス軍の戦艦は大理石調のイタリアモダン
 新たな敵国「SUS星間国家連合」は,複数の同盟国から成り立つ国連軍である。美術的演出として,各国の艦船は異なるデザインで識別されている。これは単に国を識別するだけではなく,文化・文明の違いをも表現しているものだ。この要素はシド・ミード版『YAMATO2520』で試みられたことである。『YAMATO2520』では,対立する二つの文明世界が描かれていた。一つは我々地球人類を祖とする文明世界で,この世界は波動エネルギーが文明の中心となっている。そしてそれと100年以上対立しているセイレーン連邦は,モノポール文明という独自の文明と技術を持っており,生活様式も我々とは異なる。シド・ミードは,単にこれを力学的対立だけで表現するのではなく,潜在的美意識の対立として描くことに成功したのである。セイレーン連邦の居住空間は,左右非対称であり,5角形,7角形といった,我々が実生活ではあまり馴染みのない空間で構成されている。我々地球人からしたら,こんな歩くだけで眩暈がしそうな空間は,とてもじゃないが居心地が悪い。これは美意識の差異に他ならないことであり,きっとセイレーン連邦の人々にとっては落ち着く空間なのであろう。
 『復活篇』に登場する艦船も,地球文明から見れば非常に特異なフォルムをしているものばかりであるが,これは宇宙物理学に基づくリアリズムよりも,「美学」を優先させたことからくる面白さである。
 その中でも,エトス軍の艦船は白い大理石調で,今流行りのデザイナースマンションのようなゴージャスな質感をしている。その内部もまるで洗練されたイタリアモダンであり,一度でいいからこんな所に住んでみたい,というような感じなのである。

■SUS軍の連合艦隊は安藤美姫の衣装みたい
 『復活篇』では,要所のBGMは旧作からの音楽を引き継いでいるが,新たに登場した敵国SUSでは,クラシックのオーケストラ作品を多数使用している。どの楽曲も大編成の作品で華やかさもあり,SUS艦隊もそのBGMに乗って,赤と黒の色調が,刺さるような強烈なイメージを放っている。
 この雰囲気は,どこかで見たことがあるなと思っていたが,これぞまさしくフィギュアスケートの世界女王・安藤美姫のイメージにぴったりなのである。彼女の往年のライバルである,同じく世界女王・浅田真央が精錬かつ可憐なのに対して,安藤の作り出す空間は,妖艶かつ鋭敏なイメージである。SUS艦隊の雰囲気は,安藤美姫がフリープログラムで身にまとう衣装の雰囲気にそっくりなのだ。ラストに時空の壁を突き破って登場するSUSの巨大潜宙艦は,浅田真央の浮遊感あふれるジャンプとは対照的に,突き刺さるような鋭敏なジャンプを飛ぶ安藤美姫を彷彿とさせるのである。

■やっぱり白色彗星の方が強そうだ
 見どころ満載の『復活篇』だが,ふとここで,SUS国家連合の眼前にあの白色彗星ガトランティスが登場していたら,どちらが強いだろうかと,楽しいことを空想してしまった。銀河系に展開する艦隊規模から判断すれば,SUSは他国を凌駕する一大勢力であることはわかる(何しろ国連様だからな!)。しかし,映画におけるセンス・オブ・ワンダーすら持ちえている彗星帝国の方が圧倒的に強そうに見えるのは私だけであろうか。あの上空から威圧するような絶対的和声で書かれたパイプオルガンの大フーガとともに我々の頭上に現れる彗星帝国は,我々に何度も何度も絶望的な思いを抱かせてくれた。彗星帝国にあってSUSにないのは,この「絶望感」なのである。それは,『ウルトラマン』の最終話に登場したゼットンに対し地球人類が抱いた絶望感とも似ている。つまり,ヤマトでもどうにもならないという「絶望感」がSUSには今のところないのである。
 今回の『復活篇』第一部に登場したSUS軍の連合艦隊は,その尖兵部隊なのであろう。その背後には何者が控えているのかはまだ明らかにはされていないが,今度こそ我々人類を絶望の淵に叩きこんでくれるようなラスボスを26年ぶりに見てみたい。

 何かと賛否両論が予想される『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』にあえて点数を付けるとしたら,私は75点だ。
 それなりに楽しんだので,DVDが出たら買う予定である。次回作も必ず見に行くだろう。来月はメルボルンから友人らが来日するので,映画館に見に連れて行く予定である。ついさっき,この友人らにはAri Mailにて復活篇のフライヤーDVDを送ったところである。

■井上リサの書き下ろしヤマト・コラム
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