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28. Oktober 09

【アート】 『親子でつくる教育ぬりえ』(はあもにい教育研究会編)

01

 先日,ある自治体首長の講演会に出席した際に,帰りがけにこのようなものを頂いた。
 『親子でつくる教育ぬりえ』という子供のための「ぬり絵」の冊子である。
 「ぬり絵」といえば,私が子供の頃の記憶を振り返ってみると,動物,乗り物,草花などを題材とした幼児教育の場で使うものと,親が買い与えてくれたテレビの特撮ヒーローや,女子ならば着せ替え人形のような少女漫画のヒロインを題材としたものが思い起こされる。
 先日は,近所のスーパーの階段踊り場の壁に,子供たちが塗ったディズニー・キャラクターのぬり絵がたくさん掲示されていた。
 おおよそ「ぬり絵」といえば,本来このようなものがイメージされるであろう。

 『親子でつくる教育ぬりえ』と題した「ぬり絵」のページをめくると,他の「ぬり絵」とは明らかに異なっている雰囲気がある。そこに表された「ぬり絵」には,親子3世代の一家団欒で食卓を囲む風景や,自分の生まれてきた系図を辿る図,そして日本人が昔から毎日口にしてきた食物などが描かれている。
 この「ぬり絵」は「教育ぬり絵」と名乗っているとおり,子供たちを楽しく「ぬり絵」で遊ばせながら,「食育」や「道徳」について学ばせる,というものである。私にも経験があるが,このようなものは,学校の教師から指導要領に沿ってただ聞かされる何ら工夫のない話では,子供たちにとっても退屈で仕方がない。そこにもってきて,親子で「ぬり絵」をしながらいろいろな事を学ばせるとは,なかなか良いアイディアだ。

 各家庭には,それぞれに家庭の雰囲気や情景があり,これは子供時代からの人間形成,人格形成にも身体的に関わっているものである。そしてこれは成人した後も,子供時代の記憶の中の身体的知覚として残るのである。
 つまり,自分が「ぬり絵」で遊んでいる時に,キッチンから漂ってきた夕飯の香りや,食事の支度の時に聞こえてくるキッチンの音,といったものは,自分が親や,またはそれに準ずる者から大切に育てられたという記憶を五感をもって身体的に記憶することになるのである。このような養育の記憶を育むことは,ただ単に頭ごなしに「親を大切にしろ」,「目上の人間を敬え」,「歴史や文化を大切にしろ」などと言われるよりも,よほど説得力がある。

 ここに表されたものは,まさに良き昭和――即ち『サザエさん』的な日本の原風景なのであろう。そして今もって『サザエさん』が国民的人気なのは,時代は変わりつつも,このような一家団欒の風景が日本人の記憶の中に残っているからだ。
 そしてページをめくると,ひときわ目につくユニークな「ぬり絵」のページがある。それは男の子の体を使った人体解剖図である。人体解剖図といってもレオナルド・ダ・ヴィンチのような本格的なものではなく,かなりイラストとして簡略されたものである。しかしそれでも内臓器官の名前,正確な位置関係などを学ぶことができる。
 しかも面白いのは,子供が自分の身体の解剖図を塗りながら身体の器官について学ぶことである。一つずつ内臓を塗り,やがて全体の解剖図が完成していく仕組みである。
 実は医学の解剖実習でもそうなのだが,解剖図や文献をただ漠然と眺めているよりも,実際に自分で解剖に立ち会った箇所については,それがまるで自分自身の身体であるかのように鮮明に記憶に残り,二度と忘れないものなのである。『教育ぬりえ』もまさに同様であり,様々な異なるフォルムの内臓を「塗る」という行為から,自分の身体構造を,まさに身体的に認識していくことに繋がるのである。

02

 かつてギリシャの医神は,人間の身体各部位を夜空の天体に相対化させて認識したが,それは,例えルネサンス以降の科学的解剖学によって刷新された旧来のものであったとしても,本来は表からは見ることができない身体内部構造を天体に相対化させることで,常に具体性とリアリティをもって身体というものを捉えることができたのである。
 また,別のページでは,「解毒」と称して「排便」「排尿」「泣く」「笑う」「汗をかく」といった人間の身体的行為を子供に分かりやすく説明している。そしてもちろんこれも「ぬり絵」となっているわけだ。
 実はこの,排泄という生理現象や,「泣く」「笑う」といった感情表現を「解毒」と捉えてきたのは,古代ギリシャ医学であり,これを「カタルシス」といったのである。これはどういう事かというと,「排泄」「発熱」といった生理現象はもとより,「笑う」「泣く」といった豊かな感情表現は,体内に滞留した毒素を体外に排出させるために必要な行為であると古代ギリシャの医学者たちは考えていたのである。
 この『親子でつくる教育ぬりえ』を見て,少なからずの古代ギリシャ医学との共通点をも発見した思いである。

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