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01. September 09

【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#7「君に首ったけ 」(FOX)

 精神科医療現場の様々な人間関係やタブーを描き,放送当初から全米で大きな反響を巻き起こしてきた『メンタル』の第7話は,おそらく精神科医療に関わる者にとっては一番触れられたくない領域,いわば負の遺産としてその歴史に名を刻んでいるロボトミー術を連想させるものである。
 現在はあえて使われなくなった「精神外科」,即ち,精神疾患を投薬やカウンセリングではなく外科的に治療する分野のことであるが,今回はこのような言葉も本編で登場する。わが国でも,患者の人権が確立される以前の古い時代の用語が慣習としていくつか残っている。それの多くは法律用語や行政用語においてであり,その言葉が実社会で運用されることはほとんどない。その中でもやや差別的な印象をもたれる言葉等は,順次,「言い換え」が行われている。
 一般に最も知られるのは,精神分裂病を統合失調症として言い換えることが定着したことであろう。また前出の「精神外科」という言葉も誤解を招くということで今ではほとんど使用されない。その代替用語として運用されているのが「脳神経外科」である。同様にして,昔は日常会話の中でも良く聞かれた「精神病院」という言葉も好ましくないものとされ,「神経科」「精神科」「心療内科」などと言われるようになっている。

 今回,このドラマの主人公の精神科医ギャラガーに対してライバルとして登場する女医のザンは,精神外科医である。2人はチック症と強迫性障害が起因する潔癖症を患っている患者,クレイグの治療をめぐって激しく対立する。ザンは脳の帯状回切除を行うことでクレイグの症状は治まるというが,患者にとってもリクスが大きく,治療法の主流にもなっていないこの手術をクレイグに行うことを拒否するのである。帯状回切除術は,癲癇などに現れる情動運動を制御に有効とされるが,それはかつて多くの精神病患者に実験的に行われたロボトミー術を想起させるようなものであり,確かに,帯状回切除の副作用によって患者の性格まで変わってしまう事があれば,患者の基本的人権にも大きく抵触することにもなる。ギャラガーは,このことを懸念したと思われる。
 この時の2人のやりとりが興味深い。精神外科医のザンは,クレイグの妻が夫の介護からも早く解放されて,昔のような夫婦関係に戻るためには,効果が目に見えてわからない投薬やカウンセリングよりも脳の手術を施した方が良いという考え方である。ザンは,自分の臨床実績をあげるための功名心からではなく,彼女なりに患者のことを考えて選択した結果がこれなのである。そして,日本の医療ドラマではあまりにもタブーすぎて描かれることがない精神外科医と精神科医の対立も鮮明に描かれている。この両者の対立はしばしば外科医と内科医が対立をするのに非常に良く似ていて,精神外科医が精神科医を見る眼差しが,外科医が内科医を見る眼差しに類似している。外科医も精神外科医も,ともに根治治療を目指すものであり,そんな彼らからすると,患者に長々と付き合ってカウンセリングをするような精神科医や内科医は,まどろっこしい存在に見えるようだ。
 しかもザンは,ギャラガーをはじめとする精神科医のことを,患者の人生相談にのるカウンセラー程度にしか見ておらず,自分の事を称して“本物の医者”と言い,“本物の医者”に任せておけ,などと言うのである。
 これに対するギャラガーの診療スタイルは,これまでのエピソードを見ても分かるとおり,患者の立場に立ち,自らもその視点で患者の周辺をフィールドワークすることである。なんとしてでもクレイグの脳手術だけは避けたいギャラガーはクレイグの妻と面談することになるが,ここで妻のミミにこそ,重大な病が隠れていることを発見する。それは腫瘍による異常性行動であった。もちろんミミにはまったくそのような病識はなく,潔癖症になった夫クレイグとの夫婦関係が破綻したので,その性的欲求を紛らわすために,いろいろな男性と関係を持っていたわけである。しかし,そのあまりにも異常な性欲に何か病的なものを感じたギャラガーは,機能的,器質的な脳疾患を疑ったのである。そしてなんとギャラガーはザンに診断を依頼した。
 このようなことができるのは,ギャラガーが患者本位に動いているからであり,そうでなければ自分と対立する医師に診断を依頼することなどプライドが許さないであろう。ここの部分に,2人の医師の間に芽生えた信頼関係のようなものが垣間見えるのだ。例えば,『白い巨塔』の中での財前と里見の2人の意思を思い出す。医師としての姿勢ばかりか医事裁判においても対立関係になった外科医の財前が,自分の医局の人間ではなく,かつての同僚の里見医師に自分の病について診断を仰ぐ様子も,立場を超えた互いの信頼や友情があったように思う。

『メンタル:癒しのカルテ』
毎週火曜日 夜10:00~11:00 FOXチャンネル

■『メンタル:癒しのカルテ』 これまでのレビュー■
【海外ドラマ】

【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#3(FOXチャンネル)『メンタル:癒しのカルテ』#6(FOXチャンネル)
【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#5(FOXチャンネル)
【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#4(FOXチャンネル)

【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#2(FOXチャンネル)
【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#1(FOXチャンネル)

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