« 【格闘技】コミックマーケットにドッグレッグス参上!(8月16日,東京ビッグサイト) | Start | 【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#5「人気スターの苦悩」(FOXチャンネル) »

17. August 09

【海外ドラマ】『メンタル:癒しのカルテ』#4「少年の空想ゲーム」(FOXチャンネル)

 毎週FOXで放送中の『メンタル:癒しのカルテ』第4話の患者は,テレビゲームの世界に自閉している選択性無言症と診断された少年コナー。
 両親に連れられて,ウォートン記念病院の精神科医Dr.ギャラガーのもとを訪れたコナーは,診察中も下を向いたまま,両手がまるでゲームのコントローラーを操作しているかのように忙しない不随意運動により反復的な動きをしている。
 ギャラガーが精神科部長を務めるウォートン記念病院は,ギャラガーが新たに赴任してから体制も変わりつつある。それは,精神科医療における閉鎖性,患者不在の「制度」を内部から改革しようとしているギャラガーや彼の理解者たちの試みが徐々にだが功を奏してきているからだ。彼は赴任早々に,絵画療法室に閉じこめられていた患者たちを庭に出して,自由に遊ばせたり,患者と医師で運動会をやらせたりと,現場の医療スタッフも当惑するようなことを次々とやってきた。
 今回のエピソードの冒頭でも,さっそく患者たちを病院の壁に自由に落書きをさせている。これに困っているのは病院の事務職員で,患者の落書きを消すのにかかる費用のことを心配しているのだ。しかし実際には病院の医療スタッフも,楽しそうに落書きをする患者たちを制止する様子はない。
 絵画療法室ではいやいやながら小さな画用紙に絵を描かされていた患者たちが,いざ病院の壁に自由に絵を描いても良いとなったら,何故にこうも見違えるほどに活き活きしているのであろうか。それは,「落書き」という行為そのものが,「制度」からの開放を意味しているからである。そのインプロヴィゼーションは,全身を使って大きな画面で自由に絵を描くことで体現される。それは同時に自身の身体性を再認識することにも繋がるのである。
 これは実際にフランスのラボルド病院で,創設者のジャン・ウーリによって何度も試みられた舞踏家や音楽家と入院患者たちの即興的セッションとも方向性を同じくするものに思える。つまり,「制度」から解放された空間には,「制度」の中でコントロールする指導者はいない。そのかわり,病者による表現の「共感者」がいるのである。
 狭い部屋に閉じこめられて,療育カリキュラムとして施される絵画療法などは,確かにフォーマットの上ではアートという要素が組み込まれてはいるが,実は,そのあり方自体にはアートの本質がどれほどまでに理解された上で臨床現場にフィードバックされているのかは甚だ疑問である。この点は,今日の芸術療法が抱える問題でもあるのだ。
 また「落書き」という行為は,「制度」から開放されるとともに,その開放された空間で行われた「行為」が,直接社会とも関わることをも意味する。かつてバスキアらにも影響を与えたグラフィティというゲリラ的アートも,「落書き」から派生したものである。これがもしアートの制度で守られた空間で制作されたものならば,それはパブリック・アートとなり,その行為や作品はアートの制度の中で守られることになるが,無許可の空間で「落書き」をした場合には,それがいかにアートであっても,法的には公共物における器物破損として罰せられる。したがって,この懲罰というリアクションで社会と深く関わることになるのである。
 しかし今回ギャラガーたちは,病院の壁に勝手に落書きを始めた患者たちを制止することはしなかった。患者の赴くままに行動させてみるというギャラガーの考えは,彼のもとを訪れたコナー少年の治療方法でも一貫している。

 選択性無言症と診断されてギャラガーのもとにやってきたコナーは,あきらかに両親,特に父親からの抑圧を受けている様子が見てとてる。コナーは誰とも目を合わせることもなく,言葉も発する事無く,ゲームの世界に自閉している。彼がこのようになってしまったのは,精神障害者の家系であることを妻に隠している父が,その贖罪意識からコナーを必要以上に優秀で模範的な子供に育てようとして抑圧してきた結果である。彼はそれによって,「躁」状態の激しい躁鬱病となってしまったのだ。
 コナーが妄想の中で見ている世界は,ポリゴンで3D加工された仮想空間である。そこで得体の知れないクリーチャーと毎日戦っているのだ。彼の手が激しく不随意運動を起こす時は,彼が仮想のゲーム・コントローラーを必死に操作している時である。
 ギャラガーはコナーを無理矢理ゲームの空間から呼び戻すのではなく,コナーの妄想空間に自ら入り,武器(アイテム)を使って迫り来る敵を自力で倒せとコナーに命令する。コナーはそれに従い,アイテムの袋から次々と武器を取り出し,クリーチャーを倒していく。そして最終ステージに現れた巨大なラスボスは,明らかに父を象徴するような存在であった。コナーはラスボスから逃げようとするが,武器を持って戦い,やっとの思いでラスボスを倒した瞬間に,コナーの妄想にあった仮想空間が崩壊していくのである。
 ギャラガーが今回コナーに行った治療は,仮想ゲームの中でラスボスを倒させることである。コナーを取り巻く妄想空間は,コナーの「病」そのものが作り出したものであり,本来ならばすぐにでも排除したい空間であるが,病根を断つには,この空間でコナー自身がトラウマを克服しなければならないと考えたギャラガーは,あえてゲームオーバーとなる最終ステージまでコナーを進ませたのである。
 テレビゲームにおけるRPGには,一定の共通するフォーマットがある。それは,「戦い」-「挫折」-「旅」-「帰郷」-「克服」-「成長」というのもだ。ドラゴンクエストなどがそうであるが,未熟な勇者は必ず旅に出て,そこで賢者と出会い,いろいろな経験をついでから逞しくなって故郷へ帰り,リベンジを果たすという大きなプロットがある。ギャラガーは,このRPGにおける勇者の成長の過程をコナーに経験させたのである。
 一人の少年の妄想空間をRPGにおける成長の物語として組み立てた今回の脚本は,なかなか秀逸であった。

『メンタル:癒しのカルテ』
毎週火曜日 夜10:00~11:00 FOXチャンネル

■『メンタル:癒しのカルテ』 これまでのレビュー■
【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#3(FOXチャンネル)
【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#2(FOXチャンネル)
【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#1(FOXチャンネル)

|

« 【格闘技】コミックマーケットにドッグレッグス参上!(8月16日,東京ビッグサイト) | Start | 【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#5「人気スターの苦悩」(FOXチャンネル) »

ドラマ」カテゴリの記事

Kommentare

Kommentar schreiben



(Wird nicht angezeigt.)




« 【格闘技】コミックマーケットにドッグレッグス参上!(8月16日,東京ビッグサイト) | Start | 【海外ドラマ】 『メンタル:癒しのカルテ』#5「人気スターの苦悩」(FOXチャンネル) »