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20. Juli 09

【プレス試写会】 脱出ゲームTHE MOVIE 『大脱出!』(渋谷UPLINK X)

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 現在モバイルサイトで話題になっている脱出ゲーム「脱出ゲーム@ガットメール」からスピンオフ企画で生まれた11本のショート・ムービーからなるオムニバス映画である。
 上映時間各10分のこの作品は,主に自主映画やコンペなどで実績を重ねてきた若手監督たちが,スピンオフの発端となった脱出ゲームの中の密室という空間を,独自のフォーマットと映像表現で描いている。
 ここに表された密室とは実に様々で,学校,幼稚園,ライブハウス,Barといった具体的空間から,霊界の想念に閉じ込められた人物,面接試験会場に通う人物,事件現場から脱出できない人物,追いかられる人物といった具合に,空間の展開は変化するものの,登場人物たちが状況的に拉致監禁されているような密室空間まで登場する。短編作品として10分というほど良い尺の中で繰り広げられる世界は,そこに一応の起承転結は存在するが,例えば,タモリがストーリーテラーを務める『世にも奇妙な物語』と同様に,実際には完結しない不条理劇という内容となっている。
 密室空間というと,我々が普通に想起するのは,事件性の高い非日常的な状況であろう。しかしこのオムニバス・ムービーを見る限り,その空間といい状況といい,特に取り立てて特異な状況ではなく,我々が普段生活している日常空間でも十分に起こり得る状況である。例えば就職の面接会場が舞台の河村康平監督の『ROOKIE YEAR』や都会のコーポが舞台の新垣一平監督の『たぶん悪魔が夜来る』などは,まさに現代に暮らす我々が,毎日特に変化もなく,しかも特にクリエイティヴでもない凡庸な日々を送っている中で,その空間のわずかな歪みに落ちた時に体験するような悪夢であろう。
 また短編の不条理劇でやはり面白いのは,そこに登場する人物や場所や物の匿名性にある。まず10分という尺の中で登場人物たちの複雑な複線を張る必要はない。この空間を舞台に例えればその構造が明快になるが,唐突に画面に現れる人物たちはタモリと同様のストーリーテラーなのである。このストーリーテラーの案内によって彼らが体験した不思議な空間を我々は追体験するのである。したがって,場所も名前もたぶんこの世界のどこかにマジョリティーとして存在する不特定多数のものであり,そこにブラックホールのように存在するその密室は,匿名としてのその広い間口から,最終的には我々個々の様々な時代・履歴・背景へと繋がっていくのである。
 連続少女誘拐事件を題材にした吉田雄一郎監督の『NO MERCY』という作品では,想像するに,北関東近辺の寂れた地方都市の新興住宅地を相対化するような空間で物語が展開されていく。日中でも人を滅多に見かけることはなさそうなこの場所は,事件が起きたとしてもそれを外に知らしめる手段もないので,高台から眼下に広がる風景も含めて,ここの場所は十分に密室と言えるのである。伊藤裕満監督の『Honey Moon』は,事件現場から逃避しようとする者たちの話だが,この場所もまた,吉田雄一郎監督の作品で描かれていたような,その場所が特定できないような匿名性のある町である。こういった空間で展開されていく物語は,そこの場所を特定できるランドマークをまったく登場させないことで,見ているものを不安にさせるのである。この感覚は,例えばNHKアーカイブや60年代,70年代のテレビドラマ,特撮ヒーロー番組などで映る過去の風景の映像を見て,ノスタルジーを感じつつも,今は変わってしまった風景やそこで暮らしていた人々の情念うずまく世界に不安をかられるのと同様である。
 ここまでふれた作品は,空間や状況で密室というものを描いてきたが,最後に上映された金子雅和監督の『こなごな』は,これとは少し異なった面白い方法で密室的状況を描いていた。
 『こなごな』は,2人の男女が目の前で顔を合わせながらも携帯電話だけで会話をするという特異なコミュニケーションをとる。画面には実際の男女の会話ではなく,携帯メールで送信されたテキストのみがセリフとして羅列されていく。この状況の中で,人間がその身体性の発露である「肉声」を持って目の前の人間と有機的かつ,様々なノイズが入ったアナログ的な関係を持つという原初的な行為まで否定しているのである。
 昨今,子供時代から兄弟ごとに個室を与えられることがスタンダードになったのを一つの象徴として,このような他者との関わりを拒絶するかのごとく,自分と部外者の境界が明確な空間を公的空間でも無意識に求めるような状況が見て取れるようになってきた。電車の中で,まるで自分の部屋にいる時と同じように堂々と化粧をする女性,同じく通勤電車の座席で菓子や弁当を食べる中高生,日中から車内で吊革につかまったまま焼酎を飲む作業服の労働者,そして友人たちと食事中も目の前にいる友人を無視して携帯電話で他の友人と会話をする人間など,こういった人々の公共空間における特異な行動の病理は,過剰なストレスから身を守る自衛手段として極端に内面に自閉した結果生まれてきたものであるか,あるいは,彼らにはもはやパブリックという概念は存在せず,その代わりにいかなる空間であっても自分のルールに即した「個室」だけを求めてきた結果生まれてきた状況とも言えるであろう。
 金子監督の『こなごな』は,一見すると若い男女のありふれた日常を描きつつも,その不安定な距離感で生じた互いのストレスがラストへの狂気の展開に繋がっていく。金子監督の作品は,これまで短編の『那美の瀬』,そして長編の『すみれ人形』を見てきたが,ここに登場する人物たちはどれもこれも他者に操られた生き人形のようであり,それがもはや簡単に身体の断片と化してしまうような描き方は金子監督の映像表現の特徴ともいえる。今回の短編『こなごな』も,ラストで密室という空間を人間の身体内部に閉じ込めたのも面白い映像表現である。人間の身体内部で青白く発光する携帯電話の光源がとても美しい。

 『大脱出!』は,モバイルゲームという限定的な空間から映画へとスピンオフされた作品である。ゲーム,アニメーション,漫画といったわが国のコンテンツ産業が世界から注目を集めて久しいが,モバイルゲームからインスパイアされたクリエイターが11人集まり,彼ら独自の映像表現でゲームの世界を広げていく試みは,閉塞空間を切開し,そこに新たなバイパスをインスタレーションするような行為である。そしてその新たな回路として増設されたバイパスがゲームという限定されたコンテンツの,文字通りの“脱出口”となっているのである。
 一般公開は今年の秋の予定。その際にはAプログラム,Bプログラムと二部構成で上映を分ける予定だが,私は個人的に11本このまま連続で上映した方が,このプロジェクトの企画コンセプトを満たすのではないかと考えている。つまり,日常におけるあらゆる不条理な出来事が連続して起こり,その不条理な状況が解決することもなく集積されていくわけだが,そこで全作品の上映が終わってようやくこちら側もこの迷宮から脱出できたという実感がわいてくるような,インタラクション・ムービーともいえるものだからである。それには,1時間50分というボリュームはけして長すぎるものではない。むしろこれぐらいの長さがあって,しかも全く作品の質が異なる作品が11本並ぶことは,観客を飽きさせることはない。

『大脱出!』 上映作品リスト
西山洋市監督 『勝手に逃げろ』
尾畑信輔監督 『ネオ・モラトリアム』
河村康平監督 『ROOKIE YEAR』
山田広野監督 『未完成の絵』
遅塚勝一監督 『LOST SONG』
吉田雄一郎監督 『NO MERCY』
伊藤裕満監督 『Honey Moon』
寿時利夫監督 『教室』
永澤杏奈監督 『(無題)』
新垣一平監督 『たぶん悪魔が夜来る』
金子雅和監督 『こなごな』

■モバイルゲーム『脱出ゲーム@ガットメール』■
www.gotmail.jp

■『大脱出!』 公式サイト■
www.daidasshutsu.com

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