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27. Juni 09

【格闘技】 ドッグレッグス第79回大会「きっと生きている」の対戦カード第一弾が発表される

79

 今年8月1日に成城大学の向かいにある成城ホールで開催されるドッグレッグス第79回大会「きっと生きている」の対戦カード第一弾が発表された。
 前売りチケット購入者,及びドッグレッグスの常連客向けに先日送られてきた案内ハガキを見ると,今回もいろいろと工夫を凝らしたカードが組まれている模様だ。
 それに触れる前に,まず今回の興行タイトル「きっと生きている」であるが,これはおおよそ格闘技興行には相応しくないような,どこか牧歌的で,しかも中高生や市民劇団のやる昔懐かしい反戦劇のようなイメージのするタイトルである。だがドッグレッグスの場合,“きっと生きている”というのは,誰かに対して無事を祈るとかそういう次元の問題ではなく,ただただ自分自身の無事を祈るようなものなのである。
 つまり,重度の障害者や,癌患者,鬱病患者などの病者がプロの格闘家としてリングに上がるドッグレッグスでは,そのような彼らが万全を期してもリングの上で危険な状況になる時もあるであろう。また,難治性疾患を抱えているものならば,まことに言い難いことであるが,次の興行まで存命しているか否かという問題もある。そうでなくても,ひっそりと引退していくレスラーもいるのである。
 だから私は,ドッグレッグスの試合で我々の前に現れたレスラーとは基本的に一期一会の関係として,試合を見届けているのである。そして,彼らが確かにリングの上に立って戦っていたという事実をしっかりと脳裏に焼き付けて帰るのだ。
 「きっと生きている」というのは,そういう意味では非常に奥深い興行タイトルなのである。

 次に今回発表となった対戦カードについて触れたい。
 以下が今回第一弾として発表になったカードである。ドッグレッグスの試合は,いつもだいたい7,8カードほど行われるので,これからどんどんと追加カードが発表されていくであろう。

■ドッグレッグス第79回大会「きっと生きている」対戦カード■
(6月末日現在)

結婚記念日記念3WAYマッチ
愛人(夫)VSミセス愛人(妻)VSプチ愛人(息子)

世界障害者プロレス無差別級選手権試合
王者・鶴園 誠VS挑戦者・陽ノ道

世界障害者プロレスヘビー級選手権試合
王者・天才まるボンVSサンボ慎太郎

 まず愛人一家の変則3WAYマッチに注目。これは凄い。この異形の格闘家一家の生き様を見て,思わず『超人機メタルダー』に登場したヘドグロス,ウィズダム,ヘドグロスJr.一家を彷彿とさせる情念のようなものが見えてきてしまったではないか。
 大相撲の世界では,あの横綱・若貴対決でさえ,“同じ部屋同士の兄弟対決は残酷で見ていられない”という声が相撲ファンからも起こったというのに,こんなカードをいきなり持ってこられて,私はまたそこで“踏み絵”を踏まされることになるのか。
 ここで注目なのはプチ愛人選手であろう。父・母の格闘家としてのDNAを受け継いだプチ愛人選手は,普段は母のミセス愛人選手とともに父・愛人選手のセコンドにもついているのをリングサイドから何回か見かけたことがある。子供時代からこのような場を踏むことによって,将来は父・母を踏み越えて,すごいレスラーになっていくのだな。
 格闘技に限らずともスポーツの世界では,とかく兄弟対決,親子対決,子弟対決といったものが,不条理な劇画的空間を作ってきたが,
それはわれわれ人間の知性で理解しようとするから不条理なのであって,われわれが仮に肉食獣のような野生の目でこれを見た場合には,また別のものが見えてくるであろう。つまり,社会通念上は,「弱者」というある種差別的な言葉で括られて,その存在すらも社会からは見えないような存在として不本意な隔離をされてきたような者たちが,今度は,ただただ強い者だけが生き残るという最も野性的な世界に放たれて,そこで文字通りの「弱肉強食」を体現するということなのである。

 鶴園と陽ノ道の試合は,ドッグレッグス現役レスラーの中の,事実上の最強対決かもしれない。特に鶴園については,ここ近年彼がリングの上に沈んだところを見た記憶がないのである。下肢に重度の障害がある鶴園だが,健常部位として残存した上腕は,まるで古代ローマ兵が繰り出す斧のようにビルドアップされており,これを至近距離で振り下ろされると,相手はひとたまりもない。鶴園の場合,武器を持ったグラディエーターというよりも,鶴園の身体そのものが人間凶器なのである。
 その鶴園に挑む陽ノ道は聴覚障害者であり,彼の試合ではいつも選手入場曲もリングサイドの実況もあえて無くして,サイレントの世界で試合を観戦するような演出がなされている。鶴園との試合も至近距離での肉弾戦が予想されるので,われわれも普段以上に骨や肉の当たる鈍い音に耳を傾けながらの観戦となるだろう。
 このような状況を見せつけられると,しばしば刑事事件関連で登場するお馴染みの文言,即ち,“鈍器で人を殴ったような”という表現を連想してしまうが,そもそも鶴園の上腕自体が,鋭い刃物というよりは,斧やハンマーといった重量級の武器のイメージがするわけである。上から相手を叩き潰す鶴園のファイトスタイルがまさにそれで,何度も相手の肉体に向かって振り下ろされたその“斧”は,肉と脂で次第に歯こぼれをおこしながらも,反復的に相手に致命傷を与えていくようなものだ。“鈍器で人を殴る”ということはこういうことなのである。

 バーリトゥードの様式をとるドッグレッグスの中でも,両者とも不安定な姿勢ながらも自分の足で立ったまま行われる天才まるボンVSサンボ慎太郎の試合が,一番オーソドックスなスタイルであろう。天才まるボンは,今やドッグレッグスの看板レスラーであり,対するサンボ慎太郎は,ドッグレッグスが,まだ福祉団体の枠の中で“余興”としてレスリング興行を続けていた時代,即ちドッグレッグス黎明期を支えてきたレスラーである。ドッグレッグスがアマレス時代からプロの格闘技団体へと転身するまでを追ったドキュメンタリー『無敵のハンディキャップ』(天願大介監督作品)に収録されているアンチテーゼ北島との無制限3本勝負は,今もファンの間で語り継がれるほどの伝説のファイトである。あれから約10年の時が経った今も,サンボ慎太郎がリングの上に立っているのは奇跡に近い。なぜなら,心身に何らかの障害を持ったドッグレッグスのレスラーたちは,二次障害というリスクを負いながら,それを承知でリングに上がるからである。そしてそのために,われわれが想像を絶するような厳しいトレーニングをこなしているのである。こんな状況で10年近くもリングの上に立てること自体が常軌を逸している。

 今回の大会は8月という真夏の最中に行われる。これから1か月,選手にとってはこの時期には非常にきついトレーニングが続くであろう。各選手のポテンシャルに加えて,体力消耗が激しいこの時期に,どれだけより良いコンディションで仕上げられるかが勝負のポイントとなろう。

■ドッグレッグス第79回大会「きっと生きている」■
2009年8月1日(土)
会場:成城ホール
開場17:30 試合開始18:00
入場料:3000円

【ドッグレッグス公式ページ】

http://homepage3.nifty.com/doglegs/

【井上リサによるドッグレッグス関連記事】
ドッグレッグス第78回興行 「ここまで生きる」~究極のバーリトゥード~(4・25 北沢タウンホール)

「【格闘技】ドッグレッグス第78回興行の対戦カードが決まる」
「ドッグレッグス第77回興行レビュー」
「ドッグレッグス第76回興行レビュー」
「映画批評:天願大介監督『無敵のハンディキャップ~障害者プロレス・ドッグレッグス」

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