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13. Juni 09

【プレス試写会】 林家しん平監督 『深海獣雷牙』 (2009年・クロスロード)

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 6月11日(木),下北沢の北沢タウンホールで林家しん平監督の新作怪獣映画『深海獣雷牙』(2009年・クロスロード)のプレス試写会が行われた。
 今回公開された作品は,前作の『深海獣レイゴー』に続く,監督としては2作目の商業ベースの作品である。
 物語は,前作で戦艦大和と戦った深海の大怪獣レイゴーが,戦後60年の時を経て現代に蘇り,浅草の下町で大暴れするというもの。

 まず,しん平監督の映画づくりは,脚本段階から相当に時間をかけているという印象がある。怪獣映画のスタンダードなセオリーをよく理解しているしん平監督は,もちろん書き出したら早いのであろうが,構想を練る段階では,相当の思考的実験がなされているように思う。なぜならば,しん平監督の怪獣映画の場合,どんな怪獣を登場させるか,そしてその怪獣でどこの町を壊すかということを考える以前に,まだ誰も手を付けていない怪獣映画における余白部分を探すことから始まるからである。
 前作『深海獣レイゴー』では,物語の設定を太平洋戦争とした。そしてこの時代にゴジラ級の大怪獣を登場させ,現代あるいは未来の,いわば何でもありのオーバーテクノロジーでその怪獣と人間が戦うのではなく,戦艦大和以下連合艦隊に装備された近代火器だけで大怪獣と戦ったのである。これは初号のタイトルにも一時採用されていたように,文字通り『大和VSレイゴー』なのである。この作品の中で我々は,大和の94式46サンチ主砲弾が大怪獣目がけて炸裂するという,特撮怪獣映画史上,未だかつて見たことのなかったシーンと遭遇できたわけである。そしてなおかつ,史上最強の超弩級戦艦大和とゴジラ級の大怪獣が真剣に戦ったらどちらが強いのかという,怪獣好きの大人ならば誰しも少年少女時代に一度は空想したであろうある種のロマンの帰結をここに見たことになる。
 そして今回新たに公開された『深海獣雷牙』の世界は,浅草の町内という余白で展開される。
 近年の商業ベースの怪獣映画では,大都市や観光地のランドマークが怪獣によって派手に破壊されることにエロスやカタルシスが生成されていた。また,怪獣映画がNHKの歴史大河ドラマと同様の,ある種の「町興し」的要素も持っているならば,都市や有名観光地が怪獣に踏み潰されることは広告的宣伝効果にもつながる。この時我々は,都市という大きなフレームの中で怪獣を遠景から眺めているのであり,文字通りスクリーンの向こう側の怪獣をメインイベンターである客体として見ているのである。このような空間の中で,今回しん平監督が掘り起こしたのが,浅草の町内という空間なのである。ここで人々は,都市の中で同化した遠景としての怪獣ではなく,風呂屋や床屋や長屋の物陰からこちらを睨む怪獣と鉢合わせになるのである。

 怪獣特撮映画でリアリズムを求める場合,怪獣と人間との対峙を,24時間緊張感を保ったままの状況に描きたくなりがちだが,そこには当然のことながら人々の日常の暮らしがあり,戦時下あるいは非常時の中にあってもその日常は続いていくのである。怪獣も,なにも24時間暴れているわけではない。しん平監督の今回の作品は,その非常時下の日常空間の中での浅草の人々の,人情あふれる暮らしぶりを活き活きと描いているのである。だから,前作のレイゴーが怪獣の出てくる戦争映画とするならば,『雷牙』は,怪獣の出てくる人情ドラマであるといえるのである。そして「怪獣」という要素で2つの作品がつながることによって,両作品が「陰/陽」の関係を互いに補完し合っているのである。
 『深海獣レイゴー』の世界が戦時中の夜の海で展開され,しかも人間を容赦なく襲うレイゴーの深い情念が「陰」の世界を作り出していたのに対して,今回の『深海獣雷牙』は底抜けに陽気である。その陽気さとは,火事や祭りで大騒ぎをする浅草下町の人々の気質が作り出しているものであろう。怪獣がすぐそこまで迫っているというのに,家族を置いて情婦のもとへ走る下町のダメおやじこそ,案外これが極限状態に達した人間の本性かとも思えて愛らしくなる。また,長屋の物陰から怪獣の姿と対面した時の下町おやじの第一声も,悲鳴をあげるどころか,「カッコ良い!」である。しかも怪獣特需で大儲けをして,娘たちと一緒に旨そうな焼肉をほうばっている姿などを見ると,つくづく下町の人々のたくましささえ感じてくるのだ。
 このような下町の人々の人情味溢れる生活を描けるのは,噺家という顔も持ち合わせているしん平監督ならではないか。出演者もプロの役者陣と並んで錚々たる噺家の方々が,浅草の日常の中を活き活きと生活しているのである。これを見る限りはただの人情物語になってしまうが,この作品はあくまでも特撮大怪獣映画なのである。このような人情パートが随所に挿入されながらも,そのすぐ頭上では,大怪獣が大暴れしているという構図である。

 おそらくこれからこの作品を見る怪獣映画ファンの間では,評価が真っ二つに分かれるかもしれない。殊に,24時間緊張感を保ったまま怪獣と対峙したような状況にリアリズムを求める類の怪獣映画ファンからしてみれば,そこにまるで「寅さん」の世界みたいな「涙」と「笑い」の人情悲喜劇が挿入されることに違和感を覚えるかもしれない。だが,林家しん平という監督が何がしたい監督なのかを理解すれば,その違和感も次第に解消されていくであろう。しん平監督と親交の深い雨宮慶太監督も,“この世に映画は2種類しか存在しない。一つは怪獣が登場する映画であり,もう一つは怪獣が登場しない映画である”と言っているとおり,しん平監督は,冒頭でも述べたように,これまでどの怪獣映画も手をつけなかった余白を掘り起こすというフォーマット的実験を行っているのである。そして今回は,怪獣映画のフォーマットに浅草の人情と色艶的世界が収まったのである。
 だからといって,怪獣映画の様式美を放棄してしまったわけではない。この作品の中には,怪獣映画ファンだからこそ気づくであろう,そして喜ぶであろう様々なシークエンスが盛り込まれている。例えば,夜の海を航行する小型船舶が洋上で得体の知れない何者かに襲われるシーンや,観光地ではしゃぎまくっている空気の読めないDQNカップルが,一瞬にして怪獣の餌食となるお馴染みのシーンは,もはや怪獣映画における伝統的様式美なのである。中でも,昔ながらの風俗店が立ち並ぶ路地が炎に包まれていくシーンは,熱海が舞台となった『大巨獣ガッパ』で温泉歓楽街が大炎上するシーンをも彷彿とさせる。
 そして,隅田川から上陸した大怪獣が,あの川沿いに聳える有名ビール会社の通称“うんこビル”に一撃を与え,その黄金のうんこオブジェが夜空に舞い上がるシーンで,この怪獣映画が,真夏に相応しい陽気なお祭り映画であることを堂々と宣言しているのである。
 怪獣映画というからには,当然,怪獣と戦う何らかの軍隊か,それに準ずる組織が必要である。そこで『深海獣雷牙』の世界観で設定された組織とは,台東防衛隊という組織である。本来ならばこのような場合は自衛隊か,あるいは被害が諸外国にも及ぶ場合には米軍,または国連軍の出番であるかとも思われるが,台東防衛隊としたところに,先ほども述べたとおりこの作品が,浅草の町内という余白をもって展開されるに相応しい整合性がでてくるのである。
 今回,帝國海軍やわが国自衛隊の代わりに大活躍する台東防衛隊は,地元商店街の人々の有志によって組織された自警団のようなものだ。ここに集うメンバーは,普段は履き物屋や古本屋の主人だったりする。いわばクラスター爆弾やステルス戦闘機を隠し持っている火消し隊である。この火消し隊が,浅草の夜空を舞台に大怪獣と死闘を繰り広げるのだ。軽快な挿入歌のリズムに乗って展開される大怪獣との戦いは,まさにお祭りそのものであり,在庫一掃処分セールさながらに怪獣の頭上に投下されるクラスター爆弾は,浅草の真夏の花火のように美しい。町の人たちもそれを見物して大喜びといったところである。
 そして,あたり一面焼け野原になった町の上にどこまでも広がる青空を見た時に,盛大に盛り上がった祭りの後の,あの何ともいえない郷愁のようなものを感じるのである。
 公開は8月の予定。まさに風呂上がりの真夏の夜に浴衣を着て見るのにふさわしい作品である。

『深海獣雷牙』公式web
http://d-raiga.jp/
『深海獣雷牙』公式ブログ
http://blog.d-raiga.jp/

■先行上映■
6月27日(土)22:30~池袋・新文芸坐
「深海獣雷牙」先行上陸!特撮怪獣天国
林家 しん平監督「深海獣雷牙」「深海獣レイゴー」
手塚 昌明監督「ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS」
雨宮 慶太監督「ゼイラム」
オールナイト4作品上映と3監督によるトークショー
挿入歌の「らぶぶ(あやか・かおり・ケイリ)」も登場

■井上リサによる林家しん平監督作品レビュー記事一覧
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Kommentare

 こんにちは。ガメラ医師です。
前回の速報に引き続き、「深海獣雷牙」の詳細レポを更新頂き、有難うございました。今回の作品も新しい視点が盛り沢山のようですね。怪獣映画に人生をかけ続ける林屋しん平監督の熱意には、毎度頭の下がる思いが致します。
 各所での視聴記や公式Blogでの公開関連情報なども数が増えて参りました。拙Blog6月16日の下記TBの更新にて、こちらの試写会情報を紹介させていただいております。今年の夏は「雷牙」で暑くなりそうです。^^)
 

Verfasst von: ガメラ医師 | 16. Juni 09 18:25 Uhr

ガメラ医師様
いつもおいで下さり,ありがとうございます。
しん平監督の脚本作りにかける情熱は,まさに“怪獣魂”に溢れていますよね。
毎回,毎回,“こんな組み立て”があったんだ,というような,新しい試みが見られるので,また次の作品が見たくなります。
どうやら日本にはまだまだ,先人たちが埋めた宝の山が,あちらこちらにあるようです。

Verfasst von: 井上リサ | 16. Juni 09 21:20 Uhr

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