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27. April 09

【DVD】 坂井のぶこ 詩語りライブ 『有明戦記』

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 坂井のぶこの『有明戦記』詩語りライブのDVDを鑑賞する。このライブは,2008年9月16日にStar Poets Galleryで行われたものをノーカットで収録したものである。
 一般に「詩語り」という表現ジャンルは馴染みの少ないものである。それどころか,「現代詩」というもの自体がますます特異で,それを書いた詩人以外は理解不可能との印象を持たれているのだから当たり前である。そんな詩人が自作の詩を朗読するという「詩語り」にわざわざお金を払って聞きに行くのは,相当に奇特な人間ということになる。
 しかしこの,坂井のぶこの『有明戦記』は面白い。詩としても完成度は高いが,それよりも,まず他の分野,例えば映画やジャズライブや舞台公演といったエンターテインメントのジャンルに入れても遜色がないほどに楽しめる作品である。現代詩でこのような作品に出会うことはまさに奇跡に近い。
 『有明戦記』は坂井のぶこの第十詩集で,この詩集に収められている詩は全18章からなる1扁の長大な詩である。
 長野県の松本出身の坂井のぶこが,安曇野の有明地区に伝わる「八面大魔王」の説話・伝承から着想を得た作品である。この作品を読むには,この地域のことを民俗学的,および地政学的に知っておく必要があるだろう。
 まず,旧国名では信濃であったこの場所は,四方を錚々たる山々と盆地に囲まれて海がない。海がない代わりに木曽川や天竜川が横断し,川沿いの集落では魚だけではなく,川底に生息するトビゲラやカワゲラの幼虫,地蜂(クロスズメバチ)の幼虫も食すという独特の食文化が形成されてきた。
 近世までの人々の貧しい暮らしぶりは,松本市や伊那市などが編纂した市制史を紐解けば,当時の集落の人々の困窮した暮らしぶりも知ることができよう。
 そして『有明戦記』のプロットになっている「八面大魔王」の物語とは,坂上田村麻呂の北征の際,信州の貧しい農民が年貢を強要されているのを見かねた八面大魔王が,農民のために田村麻呂と戦ったというこの地方に伝わる伝説である。現在,安曇野市内のいたるところに,田村麻呂に成敗された八面大魔王の胴体,首,足などが祀られた神社などがある。

 『有明戦記』で描かれている世界は,現代詩にしばしばみられる実験的なコンテクストの試みでもなければ,随想的なスケッチでもない。全18編からなるこの長大な作品は,古代-近世-近代-現代と時系列につながった,ある一族を主軸にした年代記である。
 この一族とは,作品の中では具体的には言及されてはいないが,想像するに,例えばそれは,佐々木守が『ウルトラQ ザ・ムービー』の中で描いたワダツジンや,金城哲夫が『ウルトラセブン』の中で描いたノンマルトのような存在である。つまり,これらの一族や,有明のかの一族に共通していえることは,日本の国土,風土の中で生活しながらも,それとは系譜の異なる異質の文明・文化を秘めて暮らしてきた人々,ということだ。
 佐々木守が描いたワダツジンの伝承に登場する神獣・薙羅(ナギラ)や,金城哲夫が描いたノンマルトの神獣ガイロスが八面大魔王に相当するものである。

 詩人,坂井のぶこによって紡ぎだされる『有明戦記』は,壮大な神話世界の中で描かれる「戦い」,「略奪」,「陵辱」の繰り返しの荒々しい歴史が一族の末裔に瘢痕のように記憶されて,それが現世人と交わることでエロスが一気に開封されていくような,濃縮された野性を感じる作品である。
 自分の身体に刻印されたDNAによって発情させられた身体が,神の思惑で生け贄のような肉塊になっていく様子は,劇画家・前田俊夫の代表作『うろつき童子』にみられる暴力的,かつ「死」と「エロス」の領海を快楽をもって行き来する凄まじさと同様のものを感じるのである。それは後半にかけて,震えるような肉声でたたみ掛けてくる坂井のぶこの情念で一層に増幅される。その肉声は,鮮血が充満した器官のようにてらてらとした艶と張りがあり,まるでばらばらに切断された八面大魔王の身体を呼び戻すかのような悲哀に満ちた声である。
 坂井のぶこは20代から詩作を始め,30代になった頃から肉声による詩語りを本格的に始めるようになった。現在も続けている詩語りは年代的にも円熟味を増し,またこれまで活動をともにしてきた末期癌の田川紀久雄の「死」と「エロス」を共有しているであろう今だからこそ,もう一度この状況で『有明戦記』の詩語りを聞いてみたい。

DVD 坂井のぶこ 詩語りライブ 『有明戦記』(漉林書房)
頒価2200円
注目は漉林書房まで
〒210-0852
川崎市川崎区鋼管通3-7-8 2F
TEL 044-366-4658

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