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26. April 09

【格闘技】 ドッグレッグス第78回興行 「ここまで生きる」~究極のバーリトゥード~(4・25 北沢タウンホール)

 ドッグレッグスの試合を今回もリングサイドで観戦した。今回で78回目を迎える興行は,他団体のリングで活躍するレスラーたちも加わり,華やかで新鮮なものとなった。
 ドッグレッグスという格闘技団体は,もう何度も言うようだが,障害者プロレス団体である。彼らがそのことを堂々と名乗り,リングにあがるレスラーたちも全員バーリトゥーダーである。例えばどんなレスラーがいるかといえば,もともとは学生アマレス界で全国大会の出場経験があったのだが糖尿病で片足を切断し,プロレスの道を断たれた者。あるいは,生れながらの全盲柔道家。その他にも鬱,引きこもり,癌患者,脳性麻痺といったつわものたちが,総合格闘技のルールで戦うのである。
 もちろんこれを「見世物」だと言って批判するものは当然いるであろう。また,こんな“見世物”を毎回喜んで見ているわれわれに対しても,悪趣味な差別主義者として眉をひそめるものも当然いるのはわかっている。昨年と一昨年に,私が医学史・医学概論研究者として教壇に立っている大学の講義の中で,学生たちにドッグレッグスの試合を映画とDVDで見せた時も,実際ものすごい論議に発展した。
 しかし彼らのやっていることを「見世物」と言う者たちよ,何を今さら言っているのだと言いたい。古くは古代ギリシャにまで遡る格闘技とは,その円形闘技場の構造からして,「見世物」の他何物でもないのである。私は,そのようなものも含めて批評の俎上に上げて是非を問うならばまだ理解できるが,ドッグレッグスだけをことさら道徳的見地から取り上げることには些か違和感を覚えるのである。こういう輩は,かつてドッグレッグスのレスラーたちを養護施設の体育館から追い出そうとした福祉関係者や,障害者の自立を謳った福祉番組で,絶対にドッグレッグスの試合を放送しないテレビ局関係者と通底するものがある。

 今回の興行は,ドッグレッグス・ファンにとって,特に注目される出来事が開催前からあった。一つは,看板レスラーであるE.T.選手が引退してしまうこと。それから,中嶋有木選手が,試合当日までリングに上がれるかどうか分からないということであった。
 試合に先立ち本日の対戦カードが順に読み上げられていく中,果たして中嶋のカードが読み上げられるか否か,詰めかけたファンも気をもんだが,予定通り中嶋のカードも読み上げられ,試合は始まった。
 それでは今回特に印象が強かったカードについて書く。

第3試合 E.T.VSよっこいしょ(3分3R)
 もし中嶋の件がなければ,今回ファンが一番注目したカードであろう。これが長らくドッグレッグスの看板レスラーとして活躍してきたE.T.選手の引退試合である。彼はドッグレッグスの中ではもっとも重度の障害レスラーと言ってもいい。もちろん立つこともできなければ,安定した座位でファイティングポーズをとることもできない。だが,彼の身体のいたるところに施されたテーピングが,彼もまたバーリトゥーダーであることを物語っている。
 どんな優れたアスリートでも必ず「衰え」がやってくる。それは例えば阪神タイガースの化け物アスリートの金本にしても例外ではない。寂しいが,いつかは金本が老いていく姿を見なければならない。ドッグレッグスに所属する身体各部位に障害を持ったレスラーたちは,そもそもその体で格闘技をやるという過酷な状況に身を置いているぶん,その「衰え」や「老い」も早いような気がする。しかも,彼らが一度リングから降りたら,もう二度と彼らの姿を公の場で見ることはできなくなるので,通常のスポーツ選手が引退するのとはまた異なった意味を含んでいる。彼らにはリングを降りた後の,例えばプロ野球解説者やコーチングスタッフや芸能コメンテーターというステージは用意されてはいない。
 仮に,障害者スポーツというもののマーケットが大きく広がれば,リングを降りた彼らにも新たな活動場所が与えられるであろう。しかし,名だたる団体が主催しているプロレス中継ですらゴールデンタイムで放送しなくなった状況では,これ以上マーケットが広がるということは,しばらくの間は期待できない。
 このような状況にあるからこそ,ドッグレッグスの選手が引退する時には独特の寂しさを感じるのであるが,同時に,存在しながらももう二度と公式の場には出ないという状況が,例えば山口百恵のようなアイドル的神秘性ももたらしているのである。今回のE.T.選手の引退試合も文字通り“障害宇宙人,宇宙に帰る”というような演出がなされていたが,この演出には納得せざるを得ないのである。

Etvs
E.T. VS よっこいしょ


第7試合 アンチテーゼ北島VS激・大玉(3分3R)
 もともとはアマレスで全国大会に出場するほどレスラーとして高いポテンシャルを持っていた激・大玉が,今回はかつて糖尿病で切断した足に義足を付けて,両足で立つスタイルで戦いに挑んだ。対戦相手のアンチテーゼ北島は,ドッグレッグスの中ではいわば“化け物”金本のような存在かもしれない。ドッグレッグスの中では珍しい健常者レスラーだがもう40代である。しかしキックの切れはあるし,打撃も強力である。激・大玉には相応しい対戦相手だ。
 試合序盤は本当に良い試合だった。今回初めて義足をつけて立位で健常者レスラーに挑んだ激・大玉は,やはり時折姿勢が不安定になることがあり,そこを北島に付け込まれたかっこうだ。こういう所にも容赦しないのが北島の良い所で,その非情さが,これはお涙頂戴の福祉事業ではなく,決死のバーリトゥードの世界であることを再認識させてくれるのである。
 今回は北島の速攻に付いていけずに激・大玉が敗れたが,今後の可能性が期待できる試合内容であった。
 ドッグレッグスの試合は,対戦相手によってルールや対戦形式が異なるという総合格闘技の持つ本来の面白さや可能性を存分に発揮している。このような空間ではいわゆる「障害」というものは一つの様式,あるいは形式に過ぎない。試合が始まればそれを「障害」と思わせないほどに面白いのである。このような空間こそ,バリアフリーと呼ぶのではないだろうか。

Vs03

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アンチテーゼ北島VS激・大玉

新人レスラー紹介
 ドッグレッグスのリングを去っていく者もいれば,新たに加わってくる新人レスラーたちもいる。近年は彼らの存在が実に華やかである。

Vs
新人・大阪デビル
今回は大阪からわざわざドッグレッグスのリングに現れ,いきなり王者・鶴園との対戦となった。
普段は大阪の総合格闘技の道場でトレーニングに励んでいる。またぜひドッグレッグスのリングにも上がって欲しい。



Photo
新人・霊子
40代で筋萎縮症を発症した一児の母。看護師のコスチュームは,病気になる前は看護関係の仕事をしていたことに由来する。初登場で見事その巨体でドッグレッグスの看板スターである愛人(ラ・マン)選手をマットに押し潰した。


【ドッグレッグス次回興行 「きっと生きている」】
2009年8月1日(土) 17:30開場 18:00試合開始
場所:成城ホール(成城大学隣)
全指定席3,000円

【ドッグレッグス公式ページ】

http://homepage3.nifty.com/doglegs/

【井上リサによるドッグレッグス関連記事】
「【格闘技】ドッグレッグス第78回興行の対戦カードが決まる」
「ドッグレッグス第77回興行レビュー」
「ドッグレッグス第76回興行レビュー」
「映画批評:天願大介監督『無敵のハンディキャップ~障害者プロレス・ドッグレッグス」

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スポーツ・身体表現」カテゴリの記事

Kommentare

櫛引圭太 様
いつも貴重な情報とコメントを下さり、ありがとうございます。
それから今回はいろいろとご配慮いただきありがとうございます。(たぶんこれで櫛引さんには通じると思います)

仕切り直しということで、引き続きドッグレッグスへの熱い思いをどうぞ。

Kommentiert von: 井上リサ | 28. April 09 um 14:24 Uhr

いまさらながら、北島代表以外と闘う「サンボ慎太郎」はホントに強いですね。まず、リングでビクビクする事がない。
今回 対戦した「ワンミリオン松尾」みたいな目茶苦茶ファイトをするタイプは苦手かな…と思いましたが、実に冷静に密着し体勢を崩しサブミッションに移行するという……条件反射のように身体が動く様は「さすがベテラン」と唸らざるをえません。
大リーグ養成ギプスの例えではありませんが、「アンチテーゼ北島」という恐怖の呪縛から解き放たれた慎太郎は実に楽しげに闘っています。
浮かれ過ぎてハングリ−精神を忘れてしまわない為にも、北島代表には対・慎太郎に向けて第二第三の刺客を送り込んで欲しいものです。

前回の興行の時もそうでしたが、高王や関口洋一郎より中嶋有木に(櫛引が)感情移入してしまうのが不思議でした。「音が聞こえない」事や「難病である」事に対して想像力が働かないからかな?「うつ」の感じは なんとなく理解出来るから中嶋選手の方に気持ちが動くのでしょうか?
今度 聴流に会った時、この櫛引の感覚について意見を聞いてみたいところです。

記事の内容に関係なく、井上先生が「バオー」の読者である事に、激しくレスポンスします♪素敵過ぎとしか言いようがありません。…バルバルバル…

しかし、学者先生がドッグレッグスを分析すると、物凄い「知的エンターテイメント」に見えるから不思議です。

以上、仕切り直しでした♪

Kommentiert von: 櫛引圭太 | 28. April 09 um 16:21 Uhr

はじめまして。中嶋有木と申します。

以前より、大変興味深く拝読させていただいておりました。

井上先生には何度か取り上げていただき、心より感謝しております。


次回が自分に与えられるかは、分かりませんが、もし、次回リングに上がる事ができたら、よろしければお声をかけていただけば有難いと存じます。


かなり削除されて、先生にもご迷惑をおかけしてしまったとしたら、心よりお詫び申し上げます。


取り急ぎ、ご挨拶、お礼まで。


これからもドッグレッグスを何卒宜しくお願い申し上げます。

中嶋有木拝

Kommentiert von: 中嶋有木 | 28. April 09 um 17:45 Uhr

櫛引圭太 様
天願大介監督の長編ドキュメンタリー『無敵のハンディキャップ』の中で,ラストの方でアンチテーゼ北島と慎太郎が戦う壮絶なシーンが出てきますが,ご覧になったことありますか?
カメラワークも素晴らしいのです。

ドッグレッグスのレスラーたちの中で,櫛引さんが特に中嶋選手に強い思い入れがあるのは,なんとなく私も理解できます。
それは,中嶋選手がリングの上で作る空間が,観客と双方向性があるからではないでしょうか。
格闘技の歴史を古代ギリシャまで遡ると,もともとはそこの土地の支配者や王などの権力者のために捧げる,いわゆる「出しもの」としての位置づけがあって,そこが中世貴族の「決闘」とは違うわけです。
「貢物」や「出しもの」として行われた格闘技は,今でもその背景がまったく消えたというわけではなく,例えば神社などで行われるイベント興行は,文字通り,「カミサマ」に奉納するわけですよね。
つまり,そこで誰かの為に戦う,という格闘技が古来から持つ要素が,中嶋選手の空間にもあるからではないでしょうか。
中嶋選手がリング・インする時に持っている癌患者に向けた横断幕は,それを象徴していると思いました。もちろん「癌患者に向けた横断幕」というのは一つのフォーマットに過ぎず,時と場合によっては当然そのフォーマットは異なってくる。

高王の音のない作る空間も,なかなか良いですよね。
天願監督のドキュメンタリーの中で,大仁田厚にインタビューしている場面があって,その時大仁田は,俺(大仁田)なんか,観客の声援に後押しされるから戦えるのであって,音がまったくない空間,つまり観客の声援が聞こえない空間は一体どんな空間なんだろう,というような事を言っています。
音がない代わりに空間の振動とか気圧とか重力といったものを,より一層意識させられて,われわれの身体も肉食獣のように鋭敏になっていくような感覚を感じます。

ところで,櫛引さんには「バオー」がツボにはまってしまったようで。
うちにはこういったシブいものがけっこうありまして,たぶんご存じないかと思いますが,石川賢の「オリオンの虎」という作品もあります。
子どもの頃この作品を読んで泣きました。
オリオンの虎が可哀そうで,可哀そうで。

Kommentiert von: 井上リサ | 28. April 09 um 23:10 Uhr

中嶋有木様
わざわざメッセージを下さり,ありがとうございます。
ご迷惑だなんて,気になさらないで下さい。リングの上の中嶋選手の思いは,私をはじめ,ブログにメッセージをいただいた皆さん,それから対戦相手のレスラーの方にもちゃんと伝わっていますよ。
こうしてリングの上の選手からもメッセージをいただけることは大変嬉しいです。
今度リングに上がる時にはリングサイドから必ず声をかけます。
あまり世の中のスピードに合わせて焦るよりも,ぼちぼちといけば良いと思いますよ。
私もぼちぼちと日々を生きています。

Kommentiert von: 井上リサ | 28. April 09 um 23:11 Uhr

「弾丸組」かぁ…、懐かしいなぁ。
もう相当 記憶が曖昧ですが、UWF・シュートボクシング・シュートなどの影響を受けた聴覚しょうがい者の格闘集団がドッグレッグスのリングに上がっていましたね。
当時、下北沢の東演パラータで行われたドッグレッグス興行で観ましたよ。
「アンチテーゼ北島」と「サンボ慎太郎」の、まさに『愛憎渦巻く闘い』は観る者に毎回半端じゃないシコリを残す内容でした。

でも、あの『もどかしさ』こそがドッグレッグスの原点だと思っています。

Kommentiert von: 櫛引圭太 | 28. April 09 um 23:42 Uhr

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