« 【雑誌紹介】 ロハス・メディカル | Start | 【論文紹介】 齊藤基生「カブリモノのみんぞく」(名古屋学芸大学研究紀要 教養・学際編 第5号) »

08. April 09

【格闘技】ドッグレッグス第78回興行の対戦カードが決まる

4  

 ドッグレッグスの第78回興行の案内ハガキが届いた。
 このハガキを見て、また一人、ドッグレッグスを支えてきたレスラーが引退することを知った。
 今回引退してしまうのは、“障害宇宙人”と異名を取る看板レスラーのE.T選手である。
 ドッグレッグスは、自らがそう名乗っているとおり、障害者プロレス団体である。心身にさまざまな障害を抱えた格闘家たちがリングで戦う格闘技団体だ。団体名のドッグレッグスも、米語のスラングでは「役立たず」、「かたわ」などを意味する。
 団体が結成されたのは90年代初頭で、西暦2000年頃から本格的な興行を行うようになった。結成当初は養護学校の体育館などで、主に障害児の父兄や関係者のためにイベントの“出し物”として試合を行っていた。それが近年では、一般来場者からそれなりの入場料を徴収し、プロ格闘技団体として興行を行うまでに成長している。試合会場となる空間も、かつての養護施設ではなく、格闘技専門の小屋にリングを設営して行っている。
 私は天願大介監督のドキュメンタリー映画でドッグレッグスの試合を見て以来、気がついたらドッグレッグスの常連になっていて、毎回試合が近くなってくると対戦カードの記載された案内ハガキが届くのである。
 近年のドッグレッグスを見ていると、他団体と交流試合をやるなど、なかなか華やかになってきている一方で、引退していく選手たちも多くなってきた。健常な肉体を持ったスポーツ選手でさえ、トップアスリートとして第一線で競技生活を送れるのは、人生のうちのほんのわずかな時間である。アスリートたちは、その限られた時間の中で「心・技・体」を磨き、持てる力を燃焼させる。だからこそ美しいわけであるが、それゆえに彼らが年齢とともに衰えてくる様子を見るのは残酷なのである。
 それはドッグレッグスのレスラーたちも同様であり、彼らは心身に様々なハンディキャップを抱えているが故に、その選手生命も比較的短い。そして毎回何人かのレスラーが、ひっそりとリングの上から去っていくのである。その選手たちの中には、ドッグレッグス黎明期を支えてきたものたちも多く、彼らがドッグレッグス結成当時から夢として語ってきた格闘技の聖地・後楽園ホールでの興行を実現することなくリングを去ることは、実に無念であろう。
 アスリートに怪我はつきものだが、ドッグレッグスのレスラーたちは、それが単なる怪我や故障では終わらずに、「二次障害」を併発しかねないという大きなリスクを抱えてリングに上がっている。彼らの肉体は、その健常な部位は凶器のようにビルドアップされているが、それと相対するかたちで障害部位は脆弱である。試合中のちょっとしたアクシデントが大きな事故につながることさえある。いくらトレーニングを重ねても、その障害を持った脆弱な部位は変わることはない。そしてそれをカバーするために健常な部位に過度な負担がかかるのである。だから肉体の衰えも他のアスリートと比較しても早いように感じる。
 ここで引き際を与えてやるのもトレーナーの仕事なのであろう。今回引退するE.T選手は、“障害宇宙人”と異名を取る人気レスラーである。階級は恐らくスーパーヘビー級にカテゴライズされるようなレスラーである。
 ここでひとつ断っておくが、ドッグレッグスでいう“スーパーヘビー級”とは、従来の格闘技のような重量別のカテゴリーではない。では何かというと、障害の重度によって階級分けされたカテゴリーである。然るにドッグレッグスのスーパーヘビー級とは、もっとも身体障害の重いクラスという意味である。

 それにしても彼らのようなアスリートの引き際は実に難しい。その他のアスリートのように、引退後もコーチや解説者に転職できる機会はまずないであろう。ドッグレッグスのレスラーということで、社会におけるインデペンデンシー、自己実現を成してきた彼らがリングから去るということは、再び一介の障害者に戻ることをも同時に意味する。彼らには、例えば元プロ野球選手のようなポジションはない。
 社会の制度によって、それを好むと好まざると与えられてきた役割をただこなす事に違和感を持った彼らが行きついたのがドッグレッグスのリングであった。その空間は、彼らの隠れたポテンシャルか何かを誘発する有機性を持っている。そこの空間から去るということは、また社会の制度の枠組みの中に戻されてしまうことにもつながるかもしれない。あるいは、格闘技生活の中で痛めた体のために、施設での療養生活に入っていくものもいるであろう。
 それゆえに、ドッグレッグスの試合を観戦する時は、もう二度と彼らの姿はリングで見られないかもしれないという気持ちがこみ上げてくるのである。
 今回届いた対戦カードには、前回の興行でメイン・イベンターだった癌患者レスラーの中嶋有木の名前がない。彼の消息も気になるところである。

井上リサによるドッグレッグスのレビュー記事一覧
「ドッグレッグス第77回興行レビュー」
http://ringer.cocolog-nifty.com/kunst_und_medizin/2008/11/77self120081st-.html

「ドッグレッグス第76回興行レビュー」
http://ringer.cocolog-nifty.com/kunst_und_medizin/2008/05/76517face_3d5c.html

「映画批評:天願大介監督『無敵のハンディキャップ~障害者プロレス・ドッグレッグス」
http://ringer.cocolog-nifty.com/kunst_und_medizin/2008/05/1993_b9a7.html

ドッグレッグス公式webページ
http://homepage3.nifty.com/doglegs/

|

« 【雑誌紹介】 ロハス・メディカル | Start | 【論文紹介】 齊藤基生「カブリモノのみんぞく」(名古屋学芸大学研究紀要 教養・学際編 第5号) »

スポーツ・身体表現」カテゴリの記事

Kommentare

ここにもドッグレッグスの熱いファンが…(涙)。中嶋さん、相当 苦しんでいる様子です。でも、リングに上がる為、必死にもがいているみたいです。当日、中嶋さんが参戦するかどうか…そういう「見えない闘い」も含めて『ドッグレッグス』なのでしょうね。

Kommentiert von: 櫛引圭太 | 20. April 09 um 16:10 Uhr

櫛引圭太 様
中嶋さんの情報を下さりありがとうございました。
ドッグレッグスから興行のお知らせが来た時に、前回メインイベンターを務めた中嶋さんの名前が載っていなかったのが気になっていました。
追加された対戦カードには中嶋さんの名前がありますが、当日はどうなるか心配ですね。

実は私の古くからの知人で、現在末期癌と闘いながら詩の朗読ライブ活動をされている方がいて、その方と中嶋さんの姿がだぶるのですよね。
当日は、また中嶋さんの姿が見れるといいのですが。
“闘いながら生き抜いてくれ!”とエールを送りたいです。

Kommentiert von: 井上リサ | 23. April 09 um 19:13 Uhr

Kommentar schreiben



(Wird nicht angezeigt.)




TrackBack

TrackBack-Adresse für diesen Eintrag:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/204825/44602582

Folgende Weblogs beziehen sich auf 【格闘技】ドッグレッグス第78回興行の対戦カードが決まる:

« 【雑誌紹介】 ロハス・メディカル | Start | 【論文紹介】 齊藤基生「カブリモノのみんぞく」(名古屋学芸大学研究紀要 教養・学際編 第5号) »