【雑誌紹介】 ロハス・メディカル
雑誌業界に不況の波が押し寄せているといわれて久しい。このところ毎月たくさんの雑誌が休刊、あるいは廃刊に追い込まれている。その中には何十年もの間読者にも愛されてきた老舗雑誌もあったりする。
そんな状況とは対照的に、フリーペーパーといわれる新しい雑誌媒体が盛況のようである。フリーペーパーといえば、その創世期はタウン誌やグルメ雑誌の延長のようなもので、やけに巻末の広告ばかりが多くて、紙質も悪いものが目立った。こういう雑誌は基本的に「読み捨て」であり、家までは持って帰らず駅のゴミ箱に捨てて帰る人も多かった。
しかし今ではフリーペーパーも相当に様変わりしていて、例えば『R25』などは既存の商業誌にはないハードエッジな特集やコラムが読めて若年層に人気である。地下鉄のラックから品切れになることもある。
最初はタウン誌、グルメ誌の延長だったフリーペーパーも、近年では実に多様になり、医療や健康に関するフリーペーパーも見かけるようになった。この『ロハス・メディカル』もそんなフリーペーパーの一つである。
多くのフリーペーパーが地下鉄構内などのラックで入手できるのに対して、この『ロハス・メディカル』は、首都圏の主要基幹病院の患者待合室で無料で配布している。内容も生活習慣病などの特集をするなど,読者の関心のニーズに対応したもので,この他にも毎年のように改正される複雑な医療行政について分かりやすく解説するページや,患者会を母体とするNPO主宰者や医師の連載コラムも読むことが出来る。
その中で,放射線科医の加藤大基さんが連載している「通院ついでの歴史散歩」というエッセイがなかなか面白い。加藤さんは自分も癌を患った経験のある医師で、その著書『東大のがん治療医が癌になって』でも知られている。
『ロハス・メディカル』3月号では、聖路加国際病院から築地界隈の歴史散策について書かれている。聖路加国際病院の敷地と所縁のある杉田玄白やシーボルトの話に始り、近隣には芥川龍之介の生地があることも紹介されている。
「通院ついでの歴史散歩」という考え方は,なかなか楽しい。今現在も実際に通院生活を送ってる人の中には,通院生活がなかったら自分はこんな縁も所縁もない場所を訪れることはなかっただろうと思っている人もいるであろう。家と病院をただひたすら往復だけしている人もいるに違いない。しかしこの時期ならば,桜並木がきれいな場所があったりするかもしれない。少し路地裏に入れば感じの良いカフェやギャラリーがあるかもしれない。加藤さんのエッセイは,代わり映えのしない通院生活の中にも,何か新しいことや楽しいことを見つけることをガイドしてくれるものだ。
これは加藤さんが医師でありながら自分も実際に重い病を患った経験があるからこそ出てきた,患者側に立った発想であろう。毎日患者がどんな思いで通院しているかなどということは医師にはなかなか伝わりにくい。長引く療養生活の中で,町並みの四季の移り変わりを見て元気になる人もいれば,その長患いに感慨深いものを感じる人もいるであろう。そういう時に,少し視点を変えて,いつもの通院ルートを散策するのもいいだろう。そういう人には打って付けの読み物である。
『ロハス・メディカル』は間もなく5月号が刊行される。私は先日都内の基幹病院で癌検診を受けに行った時に,たまたま待合室で手に取った。他のフリーペーパーのように地下鉄構内のラックに置いてあるわけでもないので,次号が読みたければまた待合室までもらいに行かなければならない。
毎月のように,どこも悪くもないのにこの雑誌をもらうためだけに病院に行くというのは,やはり変に思われるだろうか。
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