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08. März 09

【アート】浅野庚一展(ギャルリー志門・銀座)

浅野庚一、自作を語る(2009年3月2日、ギャルリー志門にて)
 

 銀座のギャルリー志門で浅野庚一展が開催された。浅野庚一は、これまで一貫してトレーシングペーパーなど、紙を素材にしたレリーフ、立体作品を制作してきた作家である。長い作家歴は今年で軽く40年を超える。その作品は常に精密に設計されたものであり、けして情動に走らない禁欲的な表現が、観る者に突き放すような緊張感を与えている。
 これは制作態度でも一貫しており、これまで有名、無名を問わず多くの内外での展覧会にも積極的に出品してきたが、唯一、浅野庚一が出品を好まなかったのが、極端にイデオロギー色の強い美術展である。それが何かはここでは一つ一つ具体的には名前を挙げないが、ようするに、左翼的なスローガンを掲げた美術展の類である。例えば、「イラク派兵反対!」とか「憲法9条守れ」といったスローガンをテーマに掲げて美術作品を募るような作品展といったら、たいていの人はイメージがわくであろう。そもそもこういうものが果たして「美術展」と言えるかどうか、あるいは「アート」と言えるのかどうか、私も甚だ疑問ではあるが、美術作家としての浅野庚一の態度もはっきりしている。
 浅野庚一は、団塊世代よりも一回り上の1932年東京生まれ。つまりこれをみてわかるとおり、先の大戦と戦後の日本を、イデオロギーではなく実生活の中で、非常にリアルに体験してきている世代である。いわば、戦後の日本の骨格を作ってきた世代なのだ。今の日本があるのは、間違いなく現在70代、80代になる人たちのおかげであろう。
 そんな浅野庚一が、最近もあるグループ展への出品を依頼されたそうだが、断ったそうである。その展覧会は、「反戦」をテーマにしたようなものであったそうだ。浅野庚一に出品を依頼した作家も浅野庚一とは古くからの知り合いであり、昨年の藍画廊のクロージングでも顔を合わせている。それぐらい気心が知れた作家仲間ではあるが、浅野庚一にしてみれば、そういった情動的な空間で作品を展示するという行為は、作品の方向性とはまったく別の方向を向くことであり、私も彼のこの判断に同意せざるを得なかった。そしてこの時に、浅野庚一から心の内を聞くこととなる。彼は私にこのように語ってくれた。「戦争については私も言いたいことはたくさんある。日本がやってきたことの全部を肯定しようとも否定しようとも思わない。ただそれをアートという表現の場に持ち出すことに違和感がある。私はファインアーツという現場で真剣に作品を作っている」
 このコメントは、浅野庚一のこれまでの作家活動や、作品そのものを見続けていると説得力がより増してくるのである。90年代初頭あたりから、現代アートはグローバル化と、一方で極端に私小説化した作家の日常性を切り売りしていくようなスタイルに二極化していって、そこに何でもありのポップという要素が加わっていったわけだが、こういった潮流の中でも、ファインアーツの本質を見極めながら作家活動を続けてきたのが浅野庚一のような作家である。浅野の作品は、メディアが飛びつきそうな大それた社会的テーマはあえて標ぼうしない。しかしその代わりに、見る側に対し、様々な批評性を投げかけているのである。浅野庚一が自ら語るように、ファインアーツの現場で真剣勝負をしているからこそ、こちらも迂闊にものを言えないという緊張感が生まれる。
 例えば、トレーシングペーパーで作られた多角形の柱の彫刻を見て、我々は何を感じるだろうか。それをただ美しいと感じるだけか。あるいは、遠くから見ると、一見堅牢そうな質感に見えるその立体に引き寄せられて、実際に近づいてみると、今度はその虚無感で不安にかられるのはなぜだろうか。また紙をくり抜いた下地に見える偏光ガラスのような面が、二重にぶれた周囲の風景を写し込むレリーフ作品の前に立った時、その精密な幾何学空間の中にイレギュラーとして補足された自分の身体が、どこか異質に感じて居心地が悪くなるといった感覚は、どこからくるのか。
 このように、浅野庚一の一連の作品は、人間の理性のみならず、その身体感覚にも強い印象を与えるものである。そこで得る感覚とは、時代時代によって各人が内心として感じてきた無意識が炙り出されたものであり、つまりはこれをもって我々も、作品同様に丸裸にされて、浅野庚一が言うところのファインアーツというリングに上げられるのである。そのようなことを考えると、今回の展示でギャラリー空間中央に高く垂直に立った柱の彫刻は、さながら映画『2001年』に登場する石版(モノリス)のように見えてならない。

浅野庚一展
2009年3月2日-3月7日
ギャルリー志門
http://www.g-simon.com/a_topics.html

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