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15. Februar 09

【試写会】田口清隆監督 『長髪大怪獣ゲハラ』(2009年・NHK制作)

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 一昨年あたりからであろうか、インディーズ映画界では怪獣映画ブームのようなものが起こっているようだ。昨年公開された林家しん平監督の『深海獣レイゴー』や、田口清隆監督の『G』は、ゴジラやガメラ以外の久しぶりの新怪獣の登場ということもあってか、怪獣ファンたちも大喜びした。
 そんな中で、ついにNHKまでも怪獣映画を作ったと噂を聞きつけて、永田町の千代田放送会館まで試写会へ行ってきた。
 今回上映された作品は、昭和テイスト満載の『長髪大怪獣ゲハラ』という作品である。製作総指揮は平成ガメラ3部作でおなじみの樋口真嗣、そして監督は『G』の田口清隆である。また脚本にはみうらじゅんの名を連ねている。
 この作品が制作された経緯は、NHKの『テレ遊びパフォー!』という、クリエイター発掘番組の怪獣デザイン画コンテストが予想以上に盛り上がり、いっそうの事、怪獣映画まで作ってしまおう、というところからスタートしている。
 今回登場するゲハラなる怪獣は、全身がマンモスのような硬くて長い毛髪に覆われた実に不気味な黒い怪獣で、70年代の後期ウルトラ・シリーズでしばしば見られた、一連の民話シリーズに相当するような雰囲気を漂わせている。今回映画の舞台となるのも能登半島であり、これまでの大作怪獣映画が太平洋側の大都市に集中していたことを考えると、かつては産業・経済の発展が太平洋側より遅れていたことで、「裏日本」というある意味蔑称で呼ばれていたエリアに大怪獣が現れるという点もなかなかローカルな味わいがある。
 ポスターを見ても分かるとおりだが、この映画の製作者や出演者もみな、昭和の怪獣映画のテイストというものを非常に良く理解している。
 ポスターを描いたのはイラストレーターの開田裕治。もう15年以上も前のことになるが、画家で彫刻家の故・成田亨の個展会場でたまたま開田氏とお会いした時、“成田亨のデッサンで一番すごいのは、雲や海や水回りの質感の書き分けだよ!”という話題で盛り上がったと記憶している。その他にもいろいろと怪獣談義で盛り上がったと思うのだが、残念ながらそちらのほうは断片的にしか覚えていない。確か、ビラ星人などについて話した記憶はあるのだが。
 しかしいずれにしても、開田氏ほど“怪獣魂”あふれる絵描きはいないであろう。ゲハラのポスターを会場入り口で初めて見た時、子どもの頃、父に連れられて、フィンガー・ファイブの映画などと2本立てのゴジラ映画を見に行った時の、懐かしい記憶が蘇ったのもこのポスターのおかげである。あの頃はネットという環境もなく、現在のように公開前の映画情報がたくさん得られるわけではなかった。怪獣映画を楽しみにしている子供たちの情報源は、少年雑誌のカラー見開きの特集ページや封切直前になって流れるテレビCMだけである。そして新聞の映画広告欄や近くの映画館に掲示してあるポスターを見ていろいろと想像をめぐらせながら、封切を楽しみにしたものである。それゆえに、ポスターの役割は今以上に大きかったのである。
 まずこのポスターのキャッチコピーが凄い! “怖い! 凄い! 黒い長髪で人間を襲うゲハラあらはる!”である。そして“総天然色”という文字。下の方には「製作 日本放送協会」とある。このキャッチコピーにあるように、昭和の怪獣たちの多くは、ただ格好が良いだけではなく、本当に怖かったのである。なぜかというと、人を襲うからである。
 平成以降の今日の怪獣たちも確かに格好は良いのだが、人を直接襲うというよりは、都市が破壊される時の二次災害に市民が巻き込まれるケースの方が圧倒的に多い。したがって、怪獣と人間との関係性には若干の距離感があり、怪獣の方も、人間に対しての直接的な怨念を持っているというわけではなく、ただただ本能的に街を破壊して歩くという印象がある。それに対して昭和の多くの怪獣たちは、本能だけではなく、明らかに意味を理解した上で人を襲うからこそ恐ろしいのである。つまり、本来は荒唐無稽であるはずの怪獣の世界に、それを見ている我々にも当事者感が生まれるのである。
 その中でも例外として、平成ガメラ3部作の金子修介監督が撮ったゴジラは、あえてゴジラにはこれまでになかった怨念という要素を与え、ゴジラを、人知を超えた大怪獣というよりは、その土着性、因習に基づいたムラ的社会で展開される「祟り」の象徴として描いたことは、数多あるゴジラ映画の中でも異彩を放っている。

 『長髪大怪獣ゲハラ』は、上映時間が15分の短編作品だが、見終わった後は、なぜか東宝の大作映画を見たような気分になるから不思議である。それはおそらく、昭和の怪獣映画における様式美が、余すことなくテンポ良く盛り込まれているからであろう。例えば、遠洋から帰る途中の小型漁船が何者かに襲われるシーンである。まず船が不自然な動きで揺れだしたり、船底で軋む音が聞こえたりする。船室にぶら下がった裸電球も揺れだして、いよいよ異変に気がついて外へ出た船員が大怪獣に襲われるという、もう何度も怪獣映画に登場しているお馴染みのパターンである。また生き残った第一発見者が収容されている病院にマスコミや旧帝あがりだがなぜか在野にいる博士などが詰めかけるシーンもよくみられる。この時に、今でいえば怪獣に襲われたことが原因でPTSDを発症した被害者が、怪獣の名前を呼びながら意味不明に叫びだす、といった一連のシークエンスも、怪獣映画にはなくてはならない様式美なのである。
 この作品には他にも昭和の怪獣映画ファンが見たら喜びそうなシーンが満載である。音楽も伊福部昭の作品をなんとそのまま拝借している。“伊福部風”の書き下ろしではなく、あくまで伊福部昭の作品をそのまま挿入しているところも、いい大人たちがこの映画で何がやりたかったのかが非常に良く理解できる。しかしだからといって、この作品が単なる昭和テイストのオマージュだけで終わっているかと言えば、そうではない。
 田口監督もこの映画を撮るにあたって、昭和テイストを意識しながらも、新しい試みもしたと語っているとおり、怪獣と自衛隊の市街戦では、『G』で見せたような白兵戦も見せてくれる。平成怪獣のような光線技のないゲハラに対する自衛隊も近代火器で応戦するが、建物の影に隠れて小銃を構える隊員の様子でその火器の射程距離を連想し、怪獣が思いのほか近くにいることが分かるのである。怪獣対人間の白兵戦は、建物や怪獣自体が巨大化してしまった今日の怪獣映画では、なかなか見ることのできない斬新なシーンだ。

 ではなぜこんなにも人々から愛され続けてきた怪獣映画が、昔のように商業ベースで見られなくなってしまったのだろうか。いろいろと理由をあげればきりがないが、まず怪獣映画を撮るには莫大な資金が必要になる。これは特撮映画の宿命でもある。そして今の時代、確実に興行収入で利益が出ると予測できる映画でもない限り、なかなかスポンサーも現れない。特撮映画における資金繰りの困難さについては、今年に新作の『深海獣雷牙』が公開予定の林家しん平監督からもたびたびうかがっているが、怪獣映画を撮るには、例えそれがインディーズであっても、家族も捨てて、家一軒を売る覚悟で臨まないとできないのである。
 また、運よく制作、公開にこぎつけても、今度はそれを誰が見てくれるのか、という問題が残っている。その点、昭和の怪獣映画は家族そろって見ることができる映画だったのも好運であった。しかし娯楽が多様化、個人化した現在では、それは困難である。それに加えて、怪獣映画という荒唐無稽なものを楽しめるだけの心の余裕というものを無くした大人も多いのは事実である。例えば、現在公開中で大ヒットしている『20世紀少年』を見た50代以上の大人たちの評価は総じて厳しい。「荒唐無稽だ」、「子供だましな映画だ」と切り捨てる大人たちの多いことに私は驚いた。本来、そういう「荒唐無稽」で「子供だまし」のような物語を、自分が子供になったつもりで楽しむのがこの種の映画ではないのか。近い将来、孫の手を引いて映画館に足を運ぶことになるこの世代の大人たちがこれでは先が思いやられる。映画を見る時ぐらいはバカになれないのだろうか。
 ゲハラ本編の後、メイキング映像も少し流れたが、そこで、“怪獣に追いかけられるのが夢だったんです!”と語ったエキストラの男性の言葉が印象に残った。我々は、今はたぶん極めてマイノリティーとして時代の趨勢から隅に追いやられてしまっているであろうこのような人たちの存在を、もっと大切にしなければならない。それには、世界同時不況が起こっている最中でも、居酒屋で平然とマタンゴの話に熱中できる、みうらじゅんのような師匠の存在はありがたいことである。このような人たちのおかげで我々は、毎年新作の怪獣映画を楽しめるという至福の時を過ごすことができるのである。

(なおこの作品は、2009年2月24日(火) 24時10分から「NHK総合」で放送予定)

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Kommentare

 毎度お世話になっております。
上記のTBを致しました「ガメラ医師のBlog」管理人のガメラ医師でございます。こちらの記事には「ガメラ」の検索から参りました。
以前より密かに注目しておりました「長髪大怪獣ゲハラ」上映会のレポを通覧しますと予想以上の傑作らしく大変期待しております。
 拙Blogではこの度、ゲハラ上映会に付いての記事をまとめ、2月19日付けの更新、
ガメラ:長髪大怪獣ゲハラについて 2009/02/19
http://blog.goo.ne.jp/gameraishi/e/0507b958d503bdea8924c190d8273ab9
をアップしました。その中で、こちらの上映会参加記事を紹介させて頂きましたので、お時間のある折にでもご高覧頂ければ幸いです。
 それでは、これにて失礼致します。

Verfasst von: ガメラ医師 | 19. Februar 09 18:29 Uhr

ガメラ医師様,こんにちは
ゲハラは,単に怪獣映画として楽しむだけではなく,これからの怪獣映画の在り方,そもそも,「怪獣映画」というフォーマットは,今日的に可能なのか否か,など,いろいろな問題提起があったように思います。
怪獣映画というジャンルが,先鋭的なファンだけに支えてもらう方向がいいのか,あるいは,やや裾野を広げて,ゴジラとガメラの違いがよくわからないようなマジョリティーも取り込んで,国民的に盛り上がっていくのがいいのか,いろいろと考えさせられる部分も多々ありましたね。
前者は,作家志向の強いクリエイターを生む可能性も大いにありますし,後者は大型スポンサーがつくので,常に特撮現場でも十分な予算確保でき,技術の構築,継承,また実験的な試みも可能かもしれません。でも,全部いっぺんにやろうとすると,なかなか難しいですね。
とにかく,怪獣映画を見たことのない映画ファンの“食わず嫌い”は,なんとかしたいものです。

Verfasst von: 井上リサ | 02. März 09 22:39 Uhr

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verlinkt am: 19. Februar 09 17:41 Uhr

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