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20. Dezember 08

【フィギュアスケート】浅田真央VS安藤美姫~必殺技の美学

 先日行われたフィギュアスケートGPF(グランプリ・ファイナル)では,浅田真央が女子では史上初となる3A(トリプルアクセル)を2回ともクリーンに成功させるという男子選手並みの圧倒的な内容で優勝した。
 今回の浅田真央の優勝については,そのプログラムの中に入れられた2回の3Aのことが特筆すべき内容として大きく取り上げられているが,すごいのはそれだけではない。もともとこの『仮面舞踏会』というプログラム自体が,男子フィギュア選手並みの構成なのである。今後このプログラムに更なる改編を加え,例えば後半に3Aのコンビネーションジャンプを持ってくるようになれば,得点は200点を軽く超え,男子選手並みの点数をマークするだろう。
 かつて伊藤みどりという1人の天才が現れたことによって,フィギュアスケートという採点競技にアスレティカルな要素が加わり,それが採点競技の枠をはるかに超えて,人間の身体の極限を垣間見ることとなった。軸がまったくぶれずに高速回転する高いジャンプは,伊藤みどりが疑いもなくアスリートであることを認識した瞬間である。
 その後しばらく女子フィギュアは,伊藤の後継者といえるような大技をトライする選手は現れることはなく,従来のような古典的採点競技として落ち着いていた。その流れを壊すように現れたのが浅田真央である。浅田の存在自体が,まさに採点競技に政治的に孕んでいる悪しき曖昧さに対するアンチテーゼだ。そのことを鮮明にしたのが今回のGPFである。

 スポーツの世界にも政治がつきものである。古代ギリシャまでさかのぼれば,もともとスポーツとは,「争い」のメタファとして存在していたものだ。したがってそこにはスポーツとしてのアスレティカルな美学の他に,様々な政治力学が働くのは当たり前のことだ。一方でわが国は,古くより定着した劇画文化により,スポーツを性善説に基づいて美しく語ってきた文化がある。それはもちろんわが国が世界に誇る素晴らしい文化に他ならないが,時としてそれが,外国勢のロビー活動の前に無力なこともある。
 柔道に始まり,バレーボール,水泳,スキーのノルディック競技などで日本勢が強くなると,日本勢に明らかに不利になるようなルール改正がなされてきた。フィギュアスケートも例外ではなく,現在の新採点ルールでは,「加点」という曖昧な要素が加わったことによって,誰にでも出来る容易な技を見栄えよく演技する凡庸な選手が毎回不可解な高得点を稼ぎ,反対に,アスリートとして人跡未踏の技にトライし続ける日本選手には不遇の時代が到来したかに思われた。しかし,浅田の3A×2の成功が世界に衝撃を与えたことによって,改正ルールのもとでも“伊藤みどりの系譜”は生きていることを,アジアの地から世界に向けて知らしめたこととなった。
 GPFにおける浅田真央のインパクトとは,浅田だけでなし得たものではないであろう。ここは浅田とともにGPFに日本代表として出場した安藤美姫,中野友加里にも注目しなければならない。この2人の存在は浅田の快挙の影に隠れてしまいがちであるが,安藤は4S(クワドサルコー)を,そして中野は浅田と同じく3Aにトライしたことも忘れてはいけない。日本が浅田を含めてこのような選手を3人も送り込んだ事が,浅田のインパクトをより一層強調するのである。

 世界の女子フィギュア界において浅田ひとりだけ突出した状況だが,今もっとも浅田のライバルとして相応しいのは,やはり安藤美姫である。日本人の多くは,やはりこの2人の頂上決戦を再び夢見ているのではないだろうか。前年の世界選手権で『シェエラザード』を演じて一時は女王の座に就いた安藤は,浅田を迎え撃つには十分なポテンシャルを持っている。そして浅田の3Aと双璧の4Sという武器もあるのだ。
 昔から我々日本人は,とにかく“必殺技”が好きである。それは前段でも述べたとおり,長らくは野球,格闘技などを題材とした劇画文化,おいては怪獣・ヒーロー文化で構築されてきた「エロス/タナトス」が表裏一体となったフェティシズムに由来する。この空間では器用に平均的な生き方をするよりも,必殺技とともに散っていったものたちがリスペクトされる。そして必殺技使いのものは,強力なライバルがいてこそより輝く。そのライバルの座にいるのに相応しいのが安藤である。浅田の『仮面舞踏会』の中に現れる,これまでの浅田にはない踊り狂うような死の香りは,安藤が前年の世界選手権で見せた『シェエラザード』における「死の舞踏」的な暗黒性とも共通するものがある。
 今の安藤に欠けているものがあるとすれば,それはメンタルタフネスのただ一点である。
 今回のGPFで,圧倒的なアウェーの空間で,観衆が静まりかえるような演技を見せつけ,なおかつこの地ではけして祝福されることのないセンターポールに上がった「日の丸」を見つめながら「君が代」を歌い,勝利後のインタビューでは,「日本のお客さんも韓国のお客さんも,たくさん応援してくれて嬉しかったです!」と平然と言ってのける浅田真央の憎々しい図太さが,安藤にも欲しいのである。
 まもなく始まる全日本選手権では,浅田と安藤のどちらが勝つかはこのさい問題ではない。2人とも最高のコンディションと最高のポテンシャルで,「トリプルアクセル」VS「クワドサルコー」の必殺技勝負を見たいのだ。

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verlinkt am 21. Dezember 08 um 08:29 Uhr

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