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22. Dezember 08

【アート】加島祥造『求めないカレンダー』(小学館)

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 そろそろ来年のカレンダーを用意する時期になった。居間には毎年オーストラリアに在住のリンガー家の友人から届く素敵なカレンダーと決めている。書斎にも何か良いカレンダーが欲しいと思っていたところ,信州の詩人で英米文学者の加島祥造さんのところからとても良いカレンダーが届いた。
 『求めないカレンダー』と題した12枚綴りのカレンダーには,加島さんが今年出版してベストセラーとなった詩集『求めない』の中からピックアップした言葉が簡素に添えられている。
 ちなみに1月は,「求めない,それは自分を大切にすることだ」という言葉が添えられている。新年を迎えるに相応しい言葉である。

 最近テレビでは,朝から“不況だ!不況だ!”,“景気が悪い”と煽りまくっているようだ。派遣労働者が解雇されたとか,トヨタが業績赤字を出したなど,悪いニュースばかりを面白がって選別しているところを見ると,これは一種のプロパガンダではないのかと思えてくる。すると人間とは不思議なもので,自分自身はそのことをさして実感しなくても,世の中はとてつもない不景気なのかも知れないと,次第に思わされてくる。
 おまけにその“大不況”がいつの間にか麻生さんや自民党のせいにされている。これはちょっと気の毒だ。民放テレビの視聴者も,たまには日経新聞やブルームバーグのストレート・ニュースでもオンタイムで見て,メディア・リテラシーを身につけた方が精神衛生上良いだろう。

 実は「景気」と「病気」は非常によく似ていて,その気になれば「景気」も悪くなれば,「病気」にもなる。臨床の現場でも,医者の一言で「元気」になったり「病気」にもなったりする。免疫機構もそれに大いに作用される。
 時々株価チャートなどを覗いてみると,明らかにパニック売りの相場が存在する。自分がマクロ経済的な観点から分析した結果,自信を持ってホールドしようと思った銘柄にも関わらず,市場の「雰囲気」に左右されて冷静さを失う投資家がたくさんいる。つまり「言葉」や「態度」が,世の中の「景気」をいっそう悪くしているのである。
 こういう時は,お金を持っている人は遠慮せずにどんどん使うべきである。心不全を起こしている日本経済には,可及的速やかな循環改善が必要なのである。
 先日も知人らが1億のリゾートマンションをキャッシュで5000万ずつ出して買った。大いに結構なことだ。こういう景気の良い話をたくさん聞いたほうが,俄然元気が出て気持も明るくなる。

 しかし,加島さんに言わせれば,こんな今の日本の状況も滑稽に映るだろう。
 ベストセラーになった詩集『求めない』は,あまりにもいろいろなものを求めたがる我々に対して,求めるのを止めた時に見えてくる境地について書いたものである。これは加島さんのライフワークである老子の『道徳経』の中に出てくる「知足」という考え方と同じだ。
“求めない すると 今持っているもので十分であることに気がつく”
“求めない人は 顔がしっかりしている”
 と,このように自由律の散文が続いていく詩集『求めない』では,“人間は本来は求めたがるものである”という視座に立ちながらも,あえて“求めない”で生きてみることを我々に問いかけているのだ。
 加島さんはしばしば,“今ほど良い時代はないよ”と言う。連日のようにテレビでネガティヴな報道を見せられている我々からすれば,とても今は良い時代などとも思えないのであるが,老子の「知足」の思想に立ち返れば,寝床とその日の食べ物があれば幸福であると考えることもできる。その上,言論の自由があって,職業選択の自由があって,友人や家族や猫が元気でと,これで十分ではないかと加島さんは言う。そして,我々が幸福感を実感できないのは,多くのことを求めすぎているからだ,という結論に達する。
 それでも多くを求めてしまうのが人間なのだが,多くを求めた結果,それを手に出来なかった時に,今のテレビの煽り報道のように,人や世の中のせいにするような人間にだけはなりたくないものである。
 かつて“社畜”(所収:佐高信)と言われるのが格好悪くてイヤで,自分自身でニート,派遣,フリーターを選択して,“自分の夢”のために毎日を生きていた人もいるはずである。こういう人たちのことを谷口正和をはじめとする業界メディアは“高等遊民”といってもてはやした時代もあった。その人たちは今一体どこへ行ってしまったのだろう。
 

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