【アート】藍画廊出品作品『Das Knochenmark<骨髄>』
井上リサ『Das Knochenmark<骨髄>』2008
ミクストメディア(骨髄穿刺用注射器・ワイヤー・アクリル)
300×210×80mm
2008 藍画廊 「3-3-8」展
藍画廊の京橋時代最後になる展覧会に新作のエスキースを1点出品した。身体各部の再生をテーマとした一連のシリーズであり,形成外科領域や移植医療,再生医療の最新の論点からインスパイアされて,ここ近年制作している一連のシリーズである。
今回の作品の素材に使用した金属製の骨髄穿刺用注射器は,現在のものではなく,古い時代のものである。本来はこの中心の部分にガラス製の注射器が装着されるが,今回はその部分を取り外し,空洞となるようにした。タイトル『Das Knochenmark<骨髄>』にあるとおり,この空洞部分がヒトの骨髄のイメージである。
この身体再生の作品テーマを視覚的にも大きく導くきっかけを作ったのは,薬学,再生医療の現場で仕事をしている知人の学会発表用のレジュメである。
昨年のことになるが,海外での研究発表を控えたこの知人のレジュメの英訳を少しやらせてもらった時,Power Pointで使用する資料や実験データの中に,scaffoldという言葉がしばしば登場するのを発見した。scaffoldとは,建築用語としても使用される<足場>のことである。それが彫塑ならば,針金や棕櫚縄で作る骨組みに相当する。この言葉が再生医療の現場でも使用されていることに興味を持ち,他の論文にも目を通してみた。すると,このscaffoldとは,高分子繊維で立体的に作られたものであり,それが生体移植組織の<足場>になるというものであった。そのscaffoldに生態組織を効率的に誘導するためには新たに受容体が必要であり,その受容体となりうる物質の合成を試みているのが友人たちの研究チームである。
知人が仕事をしているラボは日本有数の繊維会社の一部門であり,近年では再生医療の現場での注目を集めているのは知っていたが,その研究の一端を詳しく知ることで,再生医療の分野についてもますます興味を覚えたというわけである。特に,ミクロの単位の再生医療が,まるで彫塑を作る時と同じようなことをやっているのが興味深い。
今後この作品は,その他,身体各部位のパーツと構成をして,インスタレーションやドローイングとして展開していく予定である。
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