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11. September 08

【コラム】麻生太郎の内科身体的修辞法(自由民主党総裁選)  

Photo_4  私のように,芸術や学問の世界にどっぷりと浸かっていると,とかく世間の物事には疎くなってしまうのだが,さすがに今華々しく展開されている自民党の総裁選については,いろいろなニュースがこちらにも入ってくる。昨日総裁候補が5氏出揃い,各局報道番組では総裁候補の皆さんが一堂に出演され,それぞれ自分の得意分野を活かしながら次期政権での政策を述べられていた。内容が非常に明快であったのは麻生氏と石破氏である。与謝野氏の経済政策の話も聞く価値ありだが,マクロ経済についてはまだまだ勉強不足の私には,少々ハードルが高かったようだ。その中で特に内容が面白かったのは麻生氏だ。もちろんこれは政治的論点からではなく,あくまでも美学的論点から麻生氏が面白かったのである。
 ということで,今日は,自民党総裁選にちなみ,あえて美学的論点からなぜ麻生氏の話が面白かったのかを考察する。
 
福田氏が辞意を表明して総裁選の流れになった時から,私はたびたび麻生氏の経済政策に関する発言を耳にしてきたが,例えば,心臓がバクバクいっている状態の人に無理をやらせるのはいかがなものかなど,とかく国家を人間の身体に例えた発言がいつも印象に残っていた。
 
昨日の共同記者会見でも,改革には当然痛みは伴う。だから痛み止めもリンゲル注射も必要という言葉まで飛び出した。これは構造改革によってしわ寄せがきた地方都市に対しては,個別になんらかのフォローが必要であることを言っているのがわかる。リンゲル注射の意味も,麻生氏は,痛み止めを処方した後,栄養を与えるという意図で使われていたが,私はむしろこれを,「経済の循環改善と補正」というふうにとらえた。それはさながらアシドーシスやアルカローシスのように電解質異常をきたしてバランスを失った血漿(経済)を,時間をかけて修正していく行為に符号する。つまり,1号液で静脈確保をしつつ循環改善をしたのち,3号液などで体液平衡の補正をゆっくりと行っていくという,Dr.ギャンブル流の定石のパターンである。そこのところが,麻生氏が掲げる財政立て直し策と偶然にも身体的に符合してくるところが実に面白かった。
 
それからとても興味深かったのが,麻生氏の口から今ではほとんど聞かなくなったリンゲル注射という懐かしい響きの言葉がでてきたことである。この言葉は,戦前,戦中,戦後初期,つまりわが国近代ではたしかに生きていた言葉だ。この時代は現在とは違って点滴に適用される輸液剤も種類が極めて少なく,生理食塩水,リンゲル液,低濃度のブトウ糖液しかなかった。60年代入ると,東大小児科の高津忠夫らによって現在のような多電解質液が開発されていくが,麻生氏が子供時代だった頃は,確かにリンゲル注射しかなかったのである。そしてそれが,時には起死回生の切り札として象徴的な役割を担ってきたのは事実であり,例えば遠藤周作の文学作品などにも登場するその強い象徴性は,わが国の近代医学が背負ってきた光と影を同時に表している。そして,麻生氏の口から出るリンゲル注射という言葉には,懐かしさとともに,どこかわが国が,近代から戦後の産業立国へと立ちあがっていった時の時代の手触りのようなものを感じるのである。つまり,かつてのトヨタや松下のようなものだ。これらの企業が世界と戦える優れた国産製品を開発していたころ,舶来品であったリンゲル注射も,「ソリタ-Tシリーズ」として優れた国産品として生まれ変っていったのである。
 
麻生氏の言葉が面白いのは,その言葉の背景に,近代日本がここまで歩んできた「骨格」のようなものが見えるからである。リンゲル注射は,その一つの例だ。おかげで今日は,麻生氏の言葉に思わず,わが国における輸液近代史まで頭の中で振り返ってしまった一日であった。戦後60年がすぎて,ここまで疲弊してしまった「日本」という身体を,果たしてDr.ギャンブルのように治療することができるか,お手並み拝見といったところだ。

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