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30. September 08

【名古屋芸術大学・芸術療法講座】後期集中講座レポートVol.1~「芸術療法」という言葉から受けるイメージ~

2008年度名古屋芸術大学 芸術療法講座
「美術史から考察する疾病論・医学概論」

 まず芸術療法講座後期集中講座の第1回目は,学生らがこの「芸術療法」という分野について,どれほどの馴染みと知識があるのかを知るために,簡単なレポートを提出してもらった。
 内容は,「芸術療法」という言葉から受けるイメージについて自由筆記の形式でその事柄を書くというものである。そこで出てきたものは,まず,「音楽療法」,「ダンスセラピー」,「箱庭療法」,「カラーセラピー」といった定型化された古典的なセラピーを例にあげるものも多かったが,それとは別にさらに細分化されたかたちでは,例えば「大人の塗り絵」,「ゆるキャラ」,「α派音楽」,「環境音楽」,「森林浴」など,昨今マスメディアの主に情報バラエティー番組といわれるもので話題となったいわゆる“癒し系”アイテムをあげるものも散見された。
 次に,学生らがどんな情報媒体を通して「芸術療法」の存在を認識したかについては,美学,芸術学などの専門書をあげたものの他に圧倒的に多かったのが,テレビ,新聞でのドキュメンタリーである。そのドキュメンタリーとは総じて病者や障害者をあつかったものであり,例えばある芸術の分野で突出した才能を持つ障害者の話や,また,精神科医療の分野で芸術表現を治療に導入しているケースなど,芸術と医療が具体的に結びついたものに関してはかなり強い印象を持っているのがわかる。そして注目すべきは,芸術分野を専攻している学生らが,これらのものに対して,何ら疑いの目もなく認めているわけではないということである。
 例えばある学生は,縁日の夜店でみかけたカラーセラピーまがいのものに“胡散臭さ”を感じていると書いている。またある学生は“昨今「アート」とか「セラピー」ということばが実に安易に使われている”といった,昨今の芸術療法という分野の抱える問題点をそのまま挙げている。その他にも,「アート」と「セラピー」をめぐる周辺領域をフローチャートで提示し,その中に“なんでもあり?”という言葉を書き込んだ学生もいた。
 ここにあがった学生らによる芸術療法という分野に対する異論,疑問,疑念は,普段,創作的活動に関わっているクリエイターとして感じた素直な意見であろう。つまり,芸術とはセラピーの分野でも必要であることにはかわりはないが,それならば何でも良いのか? という疑問であると私は考える。ある1人の学生が指摘した“なんでもあり?”という言葉がそれを投げかけており,医療の(特に精神科医療)分野で行われる様々な芸術表現のようなものが,クリエイターから見たらどう見えるのか,という一つの健全な批評精神の表れであると私は判断した。
 芸術療法の領域に,なぜこのような状況が生まれてきてしまうのかということについて,それは芸術療法に関わる「アート」と「セラピー」という異なる二つの分野のスタッフ,具体的には「アート」側ではクリエイター,そして「セラピー」側では医師,心理学者,カウンセラーなどが,双方の分野について深く理解していないことから起こるコミュニケーションの希薄さも原因にあることも学生に説明した。これは『アート×セラピー潮流』(フィルムアート社刊)の冒頭でも述べたとおりだが,つまり,医師,カウンセラーらのセラピー・スタッフの多くは,美学,芸術学といった領域で知識としてはアートを一応は理解してはいるが,「表現」という行為が持つ「闇」の部分についてはクリエイターとしての実感では理解できていない。ゆえに,何でもかんでもアートに見えてしまうという現象を生んでいるのは事実だ。一方で「アート」側の人間はどうかというと,昨今,アートがいろいろな分野とコラボレーションをして表現の定義が曖昧になりつつあるが,そのアートがセラピーの現場に関わる時に,アート側の人間もまた,医療や医学の分野について体系的な理解をしているわけではない。そこでやはり相互理解の誤差が生まれてくるわけである。しかも誤差が是正されないままにアートとセラピーをいとも簡単に結びつけてしまうことによって,“胡散臭い”,“なんでもあり?”という疑念が生じてしまうのである。
 これらの問題について考えていくには,やはり,本来「アート」と「セラピー」または「芸術」と「医学」はそんなに安易に結びつくものではないという大前提に立ったうえで,なおかつその接点を改めて求めていくという態度が必要である。そのために私の講義では,いわゆるアート・セラピーについて概説したり,アウトサイダーアートだけを取り上げたりはしない。医学と芸術の双方の歴史を通して,長い人類史の中で「病」,「身体」というものがどのように捉えられてきたかということにフォーカスを当てていくことを学生らにアナウンスした。私が第1回目の講義のガイダンスで学生に配布した医学史年表はそのためにある。この年表とともに美術史も振り返りながら,「芸術」と「医学」の接点で見えてくる「病」の形を浮き上がらせることから,ようやく芸術療法はスタートすると私は考えている。

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