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25. August 08

【コラム】詩人・加島祥造さんを囲んでの夕食会(伊那谷・晩晴館にて)

 詩人で英米文学者の加島祥造さんを囲んでの夕食会が,加島さんのアトリエ 「晩晴館」 の庭で開かれた。
 加島さんはもともとフォークナー研究の第一人者として内外に知られる英米文学者で,大学教官時代(信州大学,横浜国立大学)は,多くの英米文学の翻訳も手がけてこられた方である。近年は老子,荘子,白楽天などの中国の漢詩を自由律で和訳する一連の仕事に取り組まれている。昨年はそのような長年の仕事の集大成とも言うべき詩集 『求めない』 (小学館)が詩集では異例のベストセラーとなり,この詩集がきっかけで加島さんのことを知った方々も多いであろう。
 今回の夕食会の会場になったのは加島さんが住まいをかねて信州の伊那谷に構えた広いアトリエの庭。このアトリエ自体を 「晩晴館」 と呼ぶ。夕食会のためにここに集まったのは,新聞社,出版関係者やドキュメンタリー作家をはじめ,地元芸術家や音楽家,画廊オーナーなど総勢70名ほど。皆さんそれぞれに加島さんとは不思議なご縁のある方々ばかりである。
 私と加島さんとの出会いは今から4年ほど前になる。加島さんとのご縁は,私が 『芸術・思想家のラストメッセージ』(フィルムアート社刊)という本の中でユングの短い評伝を書いた際,ユングの晩年の心境を表した個所でどうしても老子の言葉を引用したくていろいろと文献をあたっていたところ,加島さんが翻訳した道徳径の中に素晴らしいセンテンスをたくさん見つけて,加島さんの言葉を引用させていただいたのが始まりである。
 老子を始めとする漢文は,読み方はもとより,その意味すらも抽象的で難解である。それに対して加島さんが全訳に取り組まれた道徳径全81章は,暖かい液体のように自然と心と体に入ってくるような文章である。それはユングが独文で書いた自伝に引用されていた老子の言葉にもっともニュアンスが近かったのである。私は 『芸術・思想家のラストメッセージ』 が上梓されるとすぐにこの本と,これまでの自著のいくつかを併せて加島さんにお送りした。その後,加島さんからもお礼のお手紙をいただいた。普通ならばここで終わるところだが,しばらくしてまた加島さんからお手紙をいただいた。その内容は,自分はユングの言葉について10年来探している言葉があって,その言葉が本当にユング自身が言った言葉なのかを知りたい,という内容のものであった。
 加島さんが長年探していたユングの言葉とは,これである。

“人間にとって決定的な問いとは,自分が限りなきものとつながっているかどうか,ということである”

 これは間違いなくユング自身が言った言葉で,私も独文と英文で書かれたユングの自伝を両方とも原著で読んでいるからすぐにわかった。そこで私は英米文学者でもある加島さん宛てに,英語版のユングの自伝の中からこの言葉が出てくるページをコピーしてお送りしたのである。それを受け取られた加島さんはたいへんに喜んで下さり,後に加島さんが出版された著書 『エッセンシャル タオ』(講談社)のイントロに,このユングの言葉を載せている。
 これらのことを通じて私と加島さんの交流が始まったのだが,後からいろいろと不思議なことがわかってきた。その一つは,私と加島さんがほぼ同時期に,デイヴィッド・ローゼンのユング研究書をやはり原著で読んでいたことである。もちろん私が加島さんと知り合うずっと以前の事である。まさにユングのいうところの“地下茎”とか,仏教哲学の阿頼耶識の領域にでもふれたような体験であった。そして晩年ユングが自伝に老子の言葉をいくつも引用していった心境も少しずつ理解できるようになったのである。
 おそらく私の他にも,毎年この「晩晴館」に集まる方々は,いろいろなかたちで加島さんと不思議なご縁がある方ばかりなのであろう。谷の中にひっそりと立つそのアトリエは,名も無きあぜ道や小川などに囲まれ,生命の源のようなエナジーがみなぎっている,老子のいうところの「玄」の領域そのものなのである。ここで信州の山の幸を皆で戴きながら,虫の音とともに天竜川の花火大会を見て楽しむひとときは,われわれに滋養を与えてくれる。

【加島祥造さんの最近の著書】
詩集『加島祥造セレクション 秋の光』(港の人,1890円)
『静けさに帰る(帯津良一氏との対談集)』(風雲社,1575円)
『LIFE』(パルコ出版,1575円)
『HARA-腹意識への目覚』(朝日文庫,525円)

【加島祥造さん個展案内】
10月2日(木)~8日(水) 名古屋丸善ギャラリー
(丸善名古屋栄店 4階ギャラリー)

【加島祥造さんトークショー】
9月13日 北九州市民文化大学
問い合わせ=同大学事務局 090-522-5008

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