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18. Mai 08

【格闘技】ドッグレッグス第76回興行『障害力』(5・17 新宿FACE)

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 このほど大変幸運にも、格闘技団体の試合をリングサイド席で観戦することができた。
 私の記憶をたどると、格闘技をライブで観戦するのは、子供時代に後楽園ホールでタイガージェットシンのファイトを見て以来である。この時もリングサイドで観戦し、突如場外に出たタイガージェットシンが、サーベルを咥えながら恐ろしい形相をしてリングサイド席に迫り、私も観客の一人として必死に逃げ回ったのを思い出す。

 今回私が観戦したのはドッグレッグスというプロレス団体である。
 『障害力』という、格闘技興行にしては奇異な興行タイトルが示すとおり、これは、例えば知的障害、身体障害、ニート、ひきこもり、癌患者など、さまざまなハンディキャップを負った格闘家たちが集う、いわば障害者プロレス集団なのである。団体名のドッグレッグスも、もともとは英語のスラングでよくでてくる言葉で、「ダメなやつ」、「役立たず」、「かたわ」などを表すものだ。
 たぶん本日のエントリーをここまで読んだ多くのブログ読者の方々は、これを見てはいけない残酷な「見世物」と思うだろう。そして、井上はこんなものを見て喜んで、なんとまあ悪趣味な人間だとも思うかもしれない。しかしそれは早計である。もちろん私が悪趣味だと思われるのは一向に構わないが、ドッグレッグスの興行を実際に一度でも見れば、彼らが甘やかされた偽善主義を脱ぎ捨てて、己の肉体の極限に立っているプロのアスリートであることがわかるであろう。

 まず注目すべきは、彼らハンディキャップを負った者たちが、「プロ格闘家」と名乗っていることである。今回で76回目を迎える興行は、回を増すごとに観客が増え、今回も会場は超満員である。興行の規模としては今のところ東北の「みちのくプロレス」規模であるが、チケット販売ルートの確保や料金、会場の設営などをみても、興行として成り立っている。そして試合を行う際も、障害の種類、重度によってボクシングや柔道のように厳格に階級分けがなされ、各レスラーは、K-1ルールや総合ルールに準ずるルールにのっとってファイトを行うのである。
 ここで見えてくるのは、人間の身体の限界、それともうひとつ、それと対極をなす身体の可能性である。この命題は、実は同時にイチロー、北島康介、浅田真央、金本知憲、藤川球児といった現代のアスリートが求めていることでもある。彼らは恵まれた身体と近代的生理学をもって、重力、遠心力、空気抵抗、摩擦抵抗のただ中に肉体を曝し、プロとしてそこで最高のパフォーマンスを完成させようとする。一方で、ドッグレッグスのレスラーたちは、残された身体機能をフルに使って、格闘家としての最高のパフォーマンスを求めようとする。ステージは異なっても、この両者が最終的にたどり着く美学には違いはないように感じた。

 では本日の対戦カードで印象に残ったものについてふれることにする。
 まず、第5試合「中嶋有木VSハードロック」
 往年の山下を思わせる威厳に満ちた柔道着姿のハードロックは視覚障害者である。介助人の先導でリングに上がって一礼する姿に好感が持てた。対する中嶋は癌再発におびえる癌患者である。彼は癌再発の恐怖が原因で重い鬱病も併発してしまった。昨今、「癌難民」という言葉がしばしば聞かれるようになったが、中嶋も、その「癌難民」の一人であろう。
 「癌難民」とは、一度は癌の治療は成功するものの何年後かに再発し、再度の治療の方向性が定まらずに孤立してしまった癌患者たちのことである。このような状況が生まれるのには様々な問題が複合的に重なり合っている。まず第一に、あまりの情報過多によって癌患者自身が迷走してしまうケースがあげられる。次に、癌を抱えたまま社会復帰をした癌患者に対する社会のサポート体制の不備も癌患者を不幸にしているのだ。こういったことが重なると、癌患者自身の治療に対するモティベーションが下がるばかりか、心理的にも社会から孤立してしまうのである。そして癌患者たちは新たな治療法や新たな主治医や新たなコミュニティを求めて難民のように迷走し続けているうちに、居場所がなくなり孤立していくのである。
 癌再発の恐怖と同時に欝病まで併発した中嶋がドッグレッグスに最後の居場所を求めたのも、以上のような再発癌患者をとりまく日本社会の現況を考えると、至極まっとうなことである。「肉体の限界」というアスリートの命題は、中嶋の場合、格闘家として実際に戦うことが即ち“闘病”のメタファーとなって体現されるのである。
 中嶋VSハードロックのファイトは、結局ハードロックの腕挫十字固が決まって中嶋は敗れたが、これからも格闘家として戦う姿を晒して、癌再発の恐怖を乗り越えてほしい。

 第6試合「関口洋一郎VA福祉パワー」
 これは障害者VS健常者の変則マッチである。
 足に障害のある関口は座位のまま上半身をフルに使ったファイトスタイル。これに対し健常者である福祉パワーも関口と同じ条件で戦うために、下半身は拘束具を装着して座位のまま戦う。
 お互いに強力な腕力を持っており、腕を鉈の様に振り下ろすさまがすごい迫力である。例えるならば、泥濘にはまったグラディエイターが、至近距離で武器を振り回して戦っているかのようだ。そして相手の体にヒットするたびに鈍器で殴ったような鈍い音がリングサイド席まで聞こえてくる。あの瞬間は、いったい何キログラム重のエネルギーが放出されているのであろうか。しかも、グラディエイターよりもすごいのは、彼らは自分の身体そのものを凶器にしてしまったところである。

 第4試合「陽ノ道・高王VS虫けらゴロー・ロリろり太」(タッグマッチ)
 このファイトのオープニングは一味違った演出がなされた。ドッグレッグスのレスラーたちも、K-1などと同様に、颯爽とした入場テーマとともにリングインするのだが、このカードに登場する陽ノ道と高王はともに聴覚障害者であるという理由から、2人が入場する時にはあえて入場テーマ曲も流れなかった。場内アナウンスでも、「音のない静かな世界でのファイトをみてほしい」という趣旨のメッセージが流れた。
 格闘技に限らず、どんな商業スポーツでも、テレビ向けコンテンツへとシフトして以来、やや過剰な演出がなされてきた。そんな中、プロ野球パ・リーグの球団が、「野球の音を楽しむ日」という趣旨で、打楽器や管楽器などを使ったヒッテイングマーチはもとより、一切の集団的な応援行為を自粛する試みをしたことがあった。これはわが国のプロ野球的風土には合わなかったようで、以後定着することはなかったが、静かな空間の中でボールの音だけが突出して聞こえる様子はなかなか新鮮であった。
 聴覚障害レスラーの陽ノ道と高王の入場はまさにそんな感じであった。暗闇と静寂の中から彼らは現れ、実際にファイトが始まっても、彼らは互いの顔が見える位置では手話でコンタクトを取り、そうでない場合には、マットを激しく叩いてその振動を伝えコンタクトをとっている。音の存在しない空間で戦っている彼らを音のある空間で我々は見ているのだが、気がついてみると、彼らがわずかに体で感じる振動をコミュニケーションツールとしているのと同様に、リングの中で聞こえる微量な音や振動に聞き耳を立てている自分もいて、試合冒頭のアナウンスが実に効果的なものであったのかがわかる。

 尚、次回興行は11月22日(土)新木場1stRING
 詳細はドッグレッグスwebページ
 http://homepage3.nifty.com/doglegs/

5・17 「障害力」試合結果

○遠呂智vs愛人vsE.T(3WAYマッチ)
チョークスリーパー

世界障害者プロレスミラクルヘビー級選手権試合
○第11代障害王・ノーシンパシーvs挑戦者・よっこいしょ
3R TKO

サンボ慎太郎・天才まるボンvs永野V明・あらいぐまラジカル○
Tフォール勝ち

陽ノ道・高王vs虫けらゴロー・ロリろり太○
レフリーストップ

中嶋有木vsハードロック○
腕挫十字固

関口洋一郎vs福祉パワー○
チョークスリーパー

世界障害者プロレススーパーヘビー級選手権試合
○第8代障害王・鶴園誠vs挑戦者・真. 大玉
ドクターストップ

公開入団テスト
○アンチテーゼ北島vs柳下ミツル
腕挫十字固

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