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04. Dezember 07

井上眼科病院「目の歴史資料館」を訪ねる

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 御茶ノ水にある井上眼科病院内にある「目の歴史資料館」を訪ねる。
 ここの資料館について説明するにはまず、明治から代々続く井上眼科病院の歴史や、その創立者であり、わが国における近代眼科学の礎となった初代・井上達也という人物にも触れなくてはならない。
 井上達也は、1848年(嘉永元年)に、漢方医であった井上肇堂の四男として生まれた。この時代は欧米では、すでにルネサンス時代を経て医学が科学として多分野に細分化していった時代であり、大きな流れとしては、イギリスの臨床医学やドイツの病理学が繁栄を極めていた時代である。
 その中でわが国は、時の明治政府が国策として、西洋医学の基礎をドイツに学ぶという方針を決定し、後にベルツとミュルレルの2人のドイツ人医師を東京大学に招いた。そのミュルレルにドイツ医学を師事したのが井上達也である。また、そればかりではなく、井上達也は、眼科学の研究をとおして、わが国では視力検査の際の視力表の考案者としてなじみ深いフランスの眼科医ランドルトらとも交流があり、資料館にもその記録が残っている。
 つまり、井上達也が研究を通して関わった人物を順に辿っていくと、必然的にわが国における近代眼科学の歴史を俯瞰することになるのである。
 眼科学の歴史とは面白いもので、古代の多くの医学者たちも、「なぜ目で映像を見ることができるのか」ということにとても興味を持っていて、古代ギリシャの時代から、目の構造や機能についてはいろいろな考察が行われている。例えばガレノスは水晶体の存在をすでに確認しているし、ファブリキウスや後のヴェザリウスらは、その水晶体が眼球の中央にあることを認識している。
 また眼科学では、レンズを多く用いることから、光学の分野とも大きく関わっている。例えば、レンズを通過する時の光の軌道は天文学者のケプラーの実験によって明らかにされたわけであるし、また、ニュートンやヤングらによる一連の光学研究は、眼科医療でなくてはならないレンズの発達にも大きく寄与しているのである。
 この資料館では、当時の眼科学の臨床記録だけではなく、眼科領域の光学機器などの展示も見ることができるので、ここを訪れた人は、たぶん眼科学の裾野の広さをいろいろと認識するであろう。

 ところで、国の施設でもなく大学病院でもない民間のクリニックが、医学史についての史料を「資料館」という形式で広く一般公開することにはどんな意義があり、価値があるのだろうか。
 まず専門の研究者に向けてだが、もし内外で、眼科学の歴史を専門に研究している医史学者がいるならば、私ならまず、ここの資料館を最初に訪問することを勧めるだろう。そして、ここにある様々なアーカイヴに触れてもらえば、わが国における眼科医療の歴史が明快に俯瞰できるであろう。また当時、現在のように治療器具や診断器具が充実していなかった時代に、臨床現場にかかわる若い研究者たちが創意工夫で診断や治療に挑んだ姿には科学者の原点を感じることができ、彼らもまた“クリエイター”であったことを再認識させられるだろう。
 それを表す資料の一つが、克明にスケッチされた眼病のカルテや視力表である。これは現在の眼科医療の現場でのものと比較しても、その正確さや緻密さがまるで劣るとは思えないのがすごいところである。例えば、実に緻密にスケッチされた眼底のカルテを見ると、網膜剥離や眼底出血などの変性部位が正確に把握できる。
 これらの資料から見えてくるのは、私がかねがね大学の講義の中でも学生たちに言っている、臨床学の原点である。もし美大生がこれらの資料を見たならば、そのデッサンのように緻密なスケッチに興味を抱き、病変というものが冷静な空間で捕捉され、写実というかたちで写し取られていくというところに、タブローにおけるデッサンとの共通点を発見するであろう。
 また、医学生がこの資料を見た時には、先人たちの偉業をとおして、臨床とは何たるかを改めて問うきっかけにもなるのではないかと思う。地理的にも、周囲には医学部のキャンパスがいくつかあるので、まだ専門の勉強を始める前の教養課程にいる学生たちにもぜひ見てもらって、これから自分たちが学ぼうとしている臨床学というものがどういうものなのかをイメージしてもらいたい。
 では一方で、一般の人たちにとってこの資料館はどんな役割があるのだろうか。この資料館が敷設されている場所は、正面玄関を入ったところの左側である。ちょうど外来患者らが診察を待つ場所と対面する位置なので、当然、ここの場所に診療を目的として訪れた一般患者たちの目にも入る場所である。それで、彼らがそこの場に足を踏み入れた時に何を思うかに私はたいへん興味がある。
 ある人は、明治から眼科病院の歴史を築いてきた歴代の医師たちの評伝に触れてみることで、同門として何らかの関わりのあるここの医師たち-すなわち自分たちの主治医のことを、より身近に感じられるようになるであろうか。またあるいは、DVDに収録された昭和初期の木造時代の古い医院や御茶ノ水界隈の風景を見て、文教地区と言われたこの町の歴史の重みをしみじみと感じるのであろうか。それは私にはわからないことである。だが昨今、物事がいささか急速に進みすぎてしまって、歴史を振り返る余裕がないどころか、何か大切なものを置き忘れてしまったように感じる今日このごろ、わが国の学問の歴史と深い関わりのある街に、このような資料館が歴史散策スポットとして存在するならば、わが国の郷土や歴史を愛する心を育んでいく契機にもなるのではないだろうか。

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Verfasst von: スーパーコピー代引き | 23. Oktober 19 09:59 Uhr

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