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16. Dezember 07

【論集】『慶応義塾大学アート・センター 年報14』2006/07

『慶応義塾大学アート・センター 年報14』2006/07
(全86ページ、附録資料『土方巽 舞踏譜の舞踏』DVD)
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 慶応義塾大学アート・センターが2006年から07年にかけて行なった事業を詳しい資料とともにまとめた論集と報告集である。内容は、現代美術作家のインスタレーションやアースワークスのためのエスキスのアーカイヴ化から、学内で所蔵する美術作品の修復プロジェクト、学外の主に美術館などのアート施設とのコラボレーション・プロジェクト、ワークショップの記録が詳細に採録されている。特筆すべきは、単に企業や大学などのいわゆる「事業計画・報告書」とは異なり、プロジェクトが進行していく過程で記録されたメモやスケッチなど、本来は完成されたステージでは目に触れることはないであろう資料も多数採録されていることである。
 近年、わが国の歴史・文化教育においては、例えば国会図書館のオンライン化に始まり、国文学研究資料館などがアーキヴィスト養成講座を毎年開講したりと、資料の保存・管理・修復に関する事業、すなわち「アーカイヴ」事業が徐々にではあるが浸透してきた印象があったが、芸術の分野、特にモダニズム以降の芸術作品、芸術表現のアーカイヴ化については前者と比べて大きく遅れをとってきたのも事実である。
 それにはいろいろと理由は考えられるが、芸術作品は、パーマネントに完成した「作品」が表に出るのであって、そこに至るまでの経緯のさまざまな痕跡は、せいぜいデッサンやエスキス、またはドローイングぐらいにしか価値を求めてこなかったという背景もある。だから例えば、作家が何かを着想してノートの切れ端に書いたメモや、作家が作品制作のために取材に行った際の宿や交通機関のオーダーの記録といったものは、作品とは直接関係のないものと見なして、資料から除外されるか知らぬ間に紛失している場合も多いのである。
 しかし、この論集の中でも各論者がたびたび主張しているように、アートという行為そのものがトータルでみた場合、アーカイヴそのものであり、アーティストそのものがアーキヴィストであるとするならば、作品や作家活動全てにかかわるあらゆる記録が構築されてこそ、その芸術作品の背景を初めて深く理解することができるのではいかと思うのである。
 このことを広く社会に向けて理解してもらうことはなかなか難しく、時間がかかるであろう。なぜならば、今まで完成された芸術作品だけを鑑賞してきた多くの人々は、その“完成された作品”という部分の時間だけを切り取って、そこに価値を集中して見る習慣がついているからである。しかし、その悪しき習慣から脱却して、より作品と深く付き合ってみようと思った時に必要になってくるのは、アーカイヴの理念を理解することと、そして実際の作品のアーカイヴなのである。
 この論集の附録であるDVD『土方巽 舞踏譜の舞踏』は、アーカイヴというものの存在、学問的意義を初めて理解するためには非常にコンパクトに編集された良い資料である。この資料は、舞踏家・土方巽の仕事のすべてを、1959年作品の『禁色』から追っていったものである。土方の舞踏メソッドはもちろんの事、作品を構想する過程で記録されたスケッチやエスキスも収録され、それを見れば土方がフランシス・ベーコンやベルメールの作品にいかに身体的に影響を受けてきたかも一目瞭然なのである。また、土方の仕事の歴史を追うことは、わが国における暗黒舞踏の歴史や、それらの芸術表現と深く関わっていた現代美術やパフォーミング・アーツの骨子を俯瞰することもできるであろう。そしてその一連の流れの中で、土方がいかにアンチ・モダニストであったかをあらためて理解することができると思う。

『慶応義塾大学アート・センター 年報14』2006/07
目次
序文「アーカイヴをアーカイヴする」前田富士男
論考「建築アート・アーカイヴの可能性」渡部葉子
論考「舞踏の形式についてⅣ.1976方法」森下 隆
論考「エスノ・アートの交錯再帰的変化とオーストラリア先住民系アートの一局面」宮坂敬造
年次企画 新入生歓迎行事「舞踏公演《記憶の海》」
年次企画 研究講演会「〈わが最良の友〉たる芸術家-バックミンスター・フラーとイサム・ノグチ」
年次企画 アート・アーカイヴ資料展「ノートする四人-土方、瀧口、ノグチ、油井」
年次企画 レクチャー&ディスカッション「アーティストはアーキヴィスト!」
受託/共同事業 港区アート・マネジメント実践講座「入門編+ワークショップ」
共同事業 横浜美術館との協同プロジェクト「美術館広報ワークショップ」
講座 「アート・マネジメント・エキスパート・セミナー
    フォローアップ・セミナー2006」
研究会 アート・マネジメント教育研究会
研究会 感の生成研究会
研究会 トランス文化の位相研究会
調査 慶応義塾所蔵作品調査・保存活動
1.朝倉文夫《藤原銀次郎胸像》設置改善処置
2.岩田 健《少年像》の洗浄保存処置・移設
3.北村四海《手古奈》の修復
プロジェクト ORC
アーカイヴ 土方巽アーカイヴ/瀧口修造アーカイヴ/ノグチ・ルーム・アーカイヴ/油井正一アーカイヴ
記録 受贈資料一覧
記録 所管資料貸出一覧
記録 活動実績
記録 刊行物/人事
記録 会議
記録 研究・教育活動業績

附録DVD『土方巽 舞踏譜の舞踏』(日英バイリンガル版)
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第1章「土方巽と舞踏」
第2章「舞踏譜の舞踏の始まり」
第3章「舞踏譜の舞踏の完成」
第4章「舞踏譜と舞踏世界」
*土方巽の貴重な舞踏資料の他に、作品の構想のためのスケッチ集「なだれ飴」、「神経」、「花」なども収録されている。

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Kommentare

始めまして、小生少々俳句をしているものですが、土方巽さんのことに興味があります。発売されているDVDを購入したいのですがどうすればいいでしょうか。教えて下さい。

大阪市、在住

男波弘志 拝。

Kommentiert von: 男波弘志 | 20. November 11 um 14:04 Uhr

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