« 【書籍】前田富士男編「心の探究者としてのパウル・クレー」 | Start | 【映画】包帯クラブ(2007・東映) »

05. November 07

【書籍】加島祥造詩集「秋の光」

Kajimashozo_3
加島祥造詩集「秋の光」(港の人・刊)

 信州の伊那谷にお住まいの詩人で英米文学者の加島祥造さんから、伊那谷の秋の便りとともに、新作の詩集が届いた。
 加島さんのお名前は、今日では壮大な自由律による老子の「道徳径」の全訳などで、タオイストとしてご存じの方も多いと思う。また、英米のミステリー愛好者なら、加島さん翻訳のミステリーは何冊と読んでいるはずだ。
 このように、時代とともに実に多面的な活動をされてきた加島さんが一貫して向き合っているのは、やはり「詩」の世界である。
 詩集「秋の光」は、加島さんが翻訳された英米の作家、中国の漢詩に加え、加島さんご自身の、「秋」をテーマにした作品を収録したものである。

 加島さんが現在アトリエと住まいを構える伊那谷は、信州の奥深い谷であり、天竜川を越えなければ行くことができない。地図で場所を調べても、山の等高線しかないような場所である。
 私は2年前、加島さんのアトリエの広い庭で開かれた詩の朗読会で、初めて伊那谷に足を踏み入れた。車で天竜川を超えると、後は延々と木々の茂みが続く、そして少し開けた急な坂道を登りきったところに、加島さんが「晩晴館」と呼ぶアトリエと住まいがある。
 ここはあたり一帯が木々に囲まれ、少し下ると平野が広がり、遠くの方には駒ケ岳連峰が見える。加島さんは今から10年以上も前に、ここへ移り住み、創作活動を続けてられている。
Inadani_2
伊那谷(加島さんのアトリエから見える景色):井上撮影

Tenryugawa
天竜川(遠方に見えるのは駒ケ岳連峰):井上撮影

 私が伊那谷を訪れたのは9月で、伊那谷に一瞬だけ訪れる短い秋のちょうど良い季節であった。だから、ここの谷での本当の自然の厳しさには、私はまだお目にかかっていない。
 詩集「秋の光」は、厳しく長い冬の前に、一瞬だけ訪れる豊かな実りの秋を、しみじみと喜ぶような詩集である。しかしそこには、日常の片隅で毎日目にする様々なディテイルの中に、人間が誰しも持って生まれた「生」「老」「病」「死」をリアルに感じるのである。例えば、この詩集に収録されている「秋輿」という作品がそうだ。
 「秋輿」は、伊那谷の自然と加島さんの身体感覚がインタラクティヴに表現された詩だ。この詩には、自分の身体におとずれた「老い」と冷静にかつユーモラスに対峙しつつも、その身体の一部にいまだ生命力が宿っていることを、エロスを超越した地点でそれを人類共通の歓喜のようなものに転換してしまうほどのダイナミズムが感じられる。
 これは、生命の源が集まる場所であると老子が言っている「谷」という空間で、季節の変わり目を単なる風景ではなく、身体感覚で認識してきた加島さんだからこそ出てき詩であると言える。
Banseikan_2
加島さんの個人誌「晩晴館通信」

 一方で、加島さんが個人で発行し続けている個人通信「晩晴館通信」の中で綴られた数々の名エッセイの中にも、秋や冬の訪れを謳ったものがあるが、とりわけ私が印象深かったのが、庭先で、よれよれと弱々しく歩く晩秋のカマキリの話だった。都会にいたら、カマキリの歩き方にまでいちいち注意がいかないが、伊那谷では、こういった細かい日常の出来事から、季節の変わり目を感じたり、あるいは、「老い」というものを象徴的に感じたりするのである。

|

« 【書籍】前田富士男編「心の探究者としてのパウル・クレー」 | Start | 【映画】包帯クラブ(2007・東映) »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Kommentare

Kommentar schreiben



(Wird nicht angezeigt.)




TrackBack


Folgende Weblogs beziehen sich auf 【書籍】加島祥造詩集「秋の光」:

« 【書籍】前田富士男編「心の探究者としてのパウル・クレー」 | Start | 【映画】包帯クラブ(2007・東映) »