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07. November 07

【映画】包帯クラブ(2007・東映)

堤幸彦監督「包帯クラブ」(2007・東映)

 映画のタイトルだけをみると、ゴスロリ系のロードムービーかあるいはサイコホラーを連想してしまいそうだが、これは高校生らが有志で集って放課後に行っている部活のことである。
 では、その「包帯クラブ」とは、どんな部活なのかといえば、何らかの理由で心身が傷ついたクライアントの依頼で、そのトラウマの現場となった場所に行き、そこの場所に包帯を巻いて帰ってくる、という活動である。クライアントと「包帯クラブ」のメンバーとの交渉はずべてインターネットのweb上で行い、クライアントはクラブのメンバーが現場で撮影した証拠写真を確認することでミッションは終了する。
 ここでいう包帯を巻くという行為は、文字どおり「手当て」を意味する。それを実際の医療のように人間の身体に施すのではなく、場所やモノに施す、という点が映像としても斬新で面白い。また、映画の内容のイメージが先行して、昨今いささか食傷気味のいわゆる“癒し系”“感動系”ムービーの範疇に入れられてしまいそうだが、それとは明らかに異なる点がある。
 それは、この作品が基本的に「人間はそんなに容易には癒されない」という立場に立っている点だ。従来の“癒し系”映画や巷にあふれる“癒し系”音楽のように、いろいろなことが都合よく起きたり、みんなで“感動”を分かち合って泣きあって抱き合ってさえいれば、傷が癒される、という甘さがない。そのかわりにあるのが、「癒し」にともなう困難さである。
 「包帯クラブ」に関わって傷が癒えていくクライアントたちは、名も顔も知らぬ「包帯クラブ」のメンバーらに少しだけ力を分けてもらい、あとは自力でトラウマと向き合い、自力で癒えていく努力をするのである。つまり、「包帯クラブ」における「癒し」とは、基本的に自立自助の上に成り立つ自律した自己治癒であり、従来の口当たりの良い“癒し系”にあるような共依存的治癒ではない。
 このことを実際の臨床学に置き換えると、たとえばプラセボというもので説明がつく。プラゼボとはつまりは偽薬のことであるが、これを「良薬」と銘打って患者に与えると、患者のほうもそうであると思い込み、偽薬なのにもかかわらず、ありもしない薬効が働き、病気が治癒するという現象である。この場合、病気を治したのは自分の意思と身体の自然治癒力ということになる。

 それから、包帯を巻くことに付随する「手当て」という行為を今一度考えてみると、これはヒポクラテスの時代の古代医学にある癒しの概念にも大いに通じる部分がある。
 「手当て」=Behandlungとは文字どおり、「傷口に手を当てる」という行為から派生しているが、これは実際に古代医学の中で行われていた焼灼治療ともかかわりがある。熱した矢じりを傷や痛みのある部位に押し当てるという治療法は、傷をふさぐという目的だけではなく、熱で痛みを緩和するという効能もあった。これほどまでに医療技術が発達した今日でも、我々は感覚的にその記憶をいまだに失っていない。
 例えば我々は、手や足をどこかにぶつけた時、ぶつけて痛かった部分にとっさに手をやり、そこをさすっていないだろうか。あるいは、頭が痛い時、歯が痛い時、不意にくる腹痛でうずくまった時、痛いところに手を当てていないだろうか。これがすなわち「手当て」=Behandlungの原点なのである。

 物語は群馬県高崎市の中のスモールタウンで展開されている。この映画の製作には高崎フィルムコミッションが全面協力していて、建物、地名もほぼ実名で登場する。特に、主人公の男子高校生が病院の屋上から見下ろす寂れた北関東の冬の風景と乾いた冷たい風が、ささくれだった主人公の少年の心を象徴し、市内の随所に点在するトラウマの場所やモノが病んだ身体の部位として横たわっている。そしてスモールタウンを縦断する川に架かるなかなか越えられない橋が、この物語の中でいう「癒し」に伴う困難さをうまく表している。

 ただ残念ながら、良質の作品であるのにもかかわらず興行的には振るわなかったようだ。この作品は、ロードショーよりも単館上映向きではなかったか。単館でロングラン上映することでリピーターも増やしながら、口コミで動員を広げていくほうが、もっと多くの人が見る機会を得ることができたのではないかと思う。
 個人的には、今年の邦画の中では上位にくる作品だ。

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