« 【名古屋芸術大学・芸術療法講座】第6回l講義 「戦争群像画におけるカタルシス」~回復装置として機能する解毒空間~ | Start | 【名古屋芸術大学・芸術療法講座】第8回講義 西洋戯画の中の「生・老・病・死」~「死」と「舞踏」 »

07. Oktober 07

【名古屋芸術大学・芸術療法講座】第7回講義 「ラファエル前派に描かれた恍惚の女性像」~「卒倒」「昏睡」の美学と麻酔学の関わり

名古屋芸術大学・芸術療法講座

美術史から読み解く疾病論・医学概論 第7回講義
「ラファエル前派に描かれた恍惚の女性像」~「卒倒」「昏睡」の美学と麻酔学の関わり

【医学年表】
1816年 ラエネック、聴診器を発明する
1831年  トーマス・ラッタ、ヒトの静脈内への生理的電解質溶液の注入に成功
      輸液療法(点滴)の夜明け(イギリス)
1833年 ミュラー、「人体生理学提要」を出版(ドイツ)
1846年 モートン、エーテル麻酔に成功(アメリカ)
1855年 ベルナール、肝臓のグリコーゲン生成機能を発見(フランス)
1858年 ウィルヒョウ、細胞病理学説を唱える(ドイツ)
1859年 ダーウィン、「種の起源」を発表(イギリス)
1860年 ゼンメルワイス、産褥熱の予防に消毒の必要を主張(ハンガリー)
1865年 メンデル、遺伝法則を発表(オーストリア)
1867年 リスター、石炭酸殺菌法を発明(イギリス)
1876年 コッホ、炭疽病菌の培養に成功(ドイツ)
1879年 ナイセル、淋菌を発見(ドイツ)
      ハンセン、らい菌を発見(ノルウェー)
1882年 コッホ、結核菌を発見(ドイツ)
      リンガー、リンゲル液を発明(イギリス)
1883年 クレプス、レフネル、ジフテリア菌を発見(ドイツ)
1884年 ニコライエル、破傷風菌を発見(ドイツ)

(日本)
1804年 華岡青洲、全身麻酔法を用いて、乳癌の手術を行う。
1815年 杉田玄白、「蘭学事始」
1823年 シーボルト、蘭学医として来日。鳴滝塾を開く
1838年 緒方洪庵、適塾を開く
1843年 佐藤泰然、佐倉に順天堂を開く
1848年 蘭学医モーニッケが聴診器、エーテル麻酔法を伝える
1849年 長崎で牛痘接種が始まる
1858年 幕府、江戸に種痘所を開く
      コレラ大流行
1861年 長崎養生所設立
1868年 明治政府、医学校を敷設
1869年 明治政府、医学の規範をドイツにとる方針を決める
1871年 ドイツ人医師ミュレル、ホフマンが来日
1874年 医制制定
1867年 ドイツ人医師ベルツ来日。
1877年 東京大学創立。

 医学と芸術の間に、何か共通する座標軸のようなものがあるとすれば、それは素描的視点、つまりデッサンという行為と臨床学的眼差しであると、私は著書「アート×セラピー潮流」の中でも一貫して主張してきた。
 それは、表層に表れた微量の変数に気づき、それを正確に写し取る能力であり、アートならば、それが質感・量感・パースペクティヴの認識へとつながり、臨床学ならば、それは身体の些細な生命活動の変動もすくいあげていくという根気と忍耐力のいる作業でもある。
 私は著書「アート×セラピー潮流」の中では、スコットランドの医師トーマス・ラッタがコレラの治療に関して1832年に書いた論文と、イギリスの生理学者シドニー・リンガーが点滴のリンゲル液を発明中に書いた1883年の論文(詳しくはリンガー研究ブログを参照http://ringer.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/post_920a.html)を取り上げ、彼らの論文が、いかにデッサン的であるかを示した。(ラッタの詳しい評伝は、以前CC Japan誌に発表した内容を要参照http://ringer.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/a_b615.html) その一方で、イギリスで興った芸術運動「ラファエル前派」の画家たちの作品を取り上げ、そこに描かれた愁いのある表情の女性像の中に、どんな生命活動が読み取れるであろうか、という事を、臨床学に置き換えてアプローチしてみた。

Photo_4
ミレー「オフェーリア」(1852)

 例えば、有名なミレー作「オフェーリア」であるが、この湖に身を投じた女性の表情を見るかぎり、それが死んでいるのか昏睡なのかわからないのだが、魅惑的な表情の表層に表れた、極めて微量な生命の兆しがまだ残っていることを認識できる。ロセッティの多くの作品に登場する女性像もそうだ。
 彼女たちは、限りなく死に近い状態にいながら、「屍」として存在しているのではない。この状態ともっとも共通するのが、19世紀にイギリスで開花した全身麻酔下の身体である。 全身麻酔下の身体とは、意識下の能動的な生命活動がすべて沈黙した状態だ。そして全身麻酔を施されたような病的な表情で誘惑する女性像には、古典文学的な闘病記に登場する結核の病者と共通する退廃的なエロスが存在する。
 麻酔という行為にエロスを感じるのは理由があって、それは、人間がヒステリー状態になった時に起こす「卒倒」や「失神」という心身ともに無防備な行為が、当時のイギリスでは女性特有の神経症状であると認識されていたのが原因の一つにあげられる。
 芸術療法講座では、ラファエル前派のこのような時代背景に重点を置き、学生らには、スライドでオフェーリアの作品を観察しながらそれをデッサンし、その次にオフェーリアのカルテを作成してもらうというワークショップを試みた。

186470_3
ロセッティ「ベアータ・ベアトリクス」(1864-70)

Photo_5
ロセッティ「ベアトリーチェの死のときのダンテの夢」(1871)

Photo_6
ロセッティ「受胎告知」(1850)

|

« 【名古屋芸術大学・芸術療法講座】第6回l講義 「戦争群像画におけるカタルシス」~回復装置として機能する解毒空間~ | Start | 【名古屋芸術大学・芸術療法講座】第8回講義 西洋戯画の中の「生・老・病・死」~「死」と「舞踏」 »

名古屋芸術大学」カテゴリの記事

Kommentare

Bei diesem Eintrag wurden Kommentare geschlossen.

TrackBack


Folgende Weblogs beziehen sich auf 【名古屋芸術大学・芸術療法講座】第7回講義 「ラファエル前派に描かれた恍惚の女性像」~「卒倒」「昏睡」の美学と麻酔学の関わり:

« 【名古屋芸術大学・芸術療法講座】第6回l講義 「戦争群像画におけるカタルシス」~回復装置として機能する解毒空間~ | Start | 【名古屋芸術大学・芸術療法講座】第8回講義 西洋戯画の中の「生・老・病・死」~「死」と「舞踏」 »