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01. Juni 07

ラジオドラマ『Die geheimnisvolle Frau(謎の女)』(ラジオ・ドイツ語講座)

 現在NHKラジオ第2放送で放送中のドラマ『Die geheimnisvolle Frau(謎の女)』がなかなか面白い内容である。実はこれ、ラジオ・ドイツ語講座で放送中のプログラムなのだが、あえて“ドラマ”と書いたとおり、単なる語学学習という領域を超えて、1つのストーリーとしても楽しむこともできる。
 物語は、製薬会社で脳神経細胞を活性化させる新薬を開発しているカール・リュープナーという主人公の薬学者が、列車の中で正体不明の女と相席になるところから始まる。カールはこの女が何者なのか不審に思い、いろいろなことを質問するが、女は一向に正体を明らかにする様子がない。そうこうしているうちにカールは車内で注文したコーヒーに薬物を入れられたようで、眠っている間にこの女にカバンを盗まれてしまうのだ。まずこのイントロ部分だけでも、語学講座としてのいろいろな工夫がみられる。
 会話を中心とした語学講座の場合、どことなく取ってつけたような挨拶や自己紹介文などが凡例として挿入される場合が多い。多くの人が中学・高校時代に英語を楽しめなくなってしまうのは、こういったつまらないテキストにも問題があるのではないか。その点、今回のドイツ語講座は、なかなか工夫していて、例えば、物語の初回で一番最初に登場する言葉は、やはり「Guten Tag !」ではあるが、これはある目的を持って主人公カールに近づこうとしているこの「謎の女」が、カールの空いている隣の席に座るために、初対面の彼に向ってかけた最初の言葉であるから、ストーリーの上に載せても違和感はない。次いで、2人の会話の中に、「Wohin fahren Sie ?」(どちらへ?)、「Was sind Sie von Beruf ?」(ご職業は?)といった初級会話で必ず目にするものが多く登場するが、これにしても、主人公カールが正体不明の女に対して言うセリフであったり、また女がさりげなくカールをプロファイルするために聞いてきているのがわかるので、まったくストーリーの邪魔にならない。しかも女がカールに言い放った「Ich bin niemand.」(私は何者でもない)などというセリフは構文的にはシンプルだが、このストーリーにおいては非常に象徴的なセリフなのが後になってわかるのである。
 このようにリスナーは、毎回流れる短いスキットで違和感なくストーリーの展開を追いかけながら、その副産物としてドイツ語特有の人称変化、格支配、話法の助動詞、接続法、副文構造などの複雑な独文法を知らず知らずのうちに習得している、という狙いがあるようだ。
 ところで、この『Die geheimnisvolle Frau(謎の女)』は、ストーリー自体も今日的内容であるといえる。このストーリーではジェニーマハー(Geniemacher)という夢の新薬の開発競争がテーマの重要な骨子の一部となっている。この新薬はヒトの脳神経細胞を活性化させ、それによって記憶力が超人的にアップするらしい。たとえば、語学が短期間で習得できたり、複雑な計算が瞬時にできたりと、つまりヒトの脳がコンピュータ並の演算能力を獲得してしまうということだ。また、演算能力のみならず運動能力も格段にアップするらしい。この点についてはテストステロンなどの強力なホルモンの活性化も促すというのか。
 このことで思い出すのが、2002年に新宿の京王プラザで開催された国際経腸栄養学会のモーニング・カンファレンスでDr.ダドリックと会って話したときのことだ。彼は言わずと知れたIVH(中心静脈の高カロリー輸液)の発案者なので、輸液が未来に向けてどんな技術として発達していくと思うか? とSF的仮説を立てて私が彼に質問したところ、彼から、「これまで輸液の歴史の中で、脱水改善、循環改善、カロリー制御などを達成してきて、次に目指すのはホルモンの完全なる代謝制御だ」という答えが返ってきて面白かった。なぜなら、その先にあるのは、間違いなくターミネータのようなサイバネティクス的世界だからだ。
 話を『Die geheimnisvolle Frau(謎の女)』にもどすが、どうやら主人公のカールは、Dr.ダドリックもまだできないことをやってしまったようだ。しかしサルでの臨床実験では神経細胞が極度の活性化に耐えられずに1週間で死滅するという副作用もあるらしい。カールはそのことをすでに知っていて、この新薬のヒトへの治験を躊躇しているようなのだが、彼の上司のシュミットは、新薬開発の競合相手であるファルマックス社の幹部とも内通しているようで、何かを企んでいるのは間違いない。しかも列車の中でカールのフラッシュメモリーをカバンごと盗んだ「謎の女」もカールの命を狙っていそうな雰囲気だ。
 放送が始まってまだ2か月なのだが、怒濤の展開である。新薬開発をめぐる人間模様や、科学技術の進歩によってもたらされる人間のQOLの変容など、『Die geheimnisvolle Frau(謎の女)』は多くの今日的なテーマを含みながらも、新薬の秘密を知ったカールが早くも上司のシュミットに消されそうな勢いなので、私は心配である。

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